其ノ十四 爪紅

 おでんの方様、大典侍おおすけ様のお二方が乗り気になられたご様子を拝見し、先の御吟味方ごぎんみがた(選出委員)取締とりしまり(委員長)の荻野おぎの様は少しほっとされて、御二人のお気が変わらないうちにと、声を裏返して畳み掛けるようにこう申されました。


「まあ、素晴らしいこと。お友達同士で御三役ごさんやくをなされるなど、ほんに愉しき一年を過ごされますこと間違い御座いませんわ。」


 おでん方様かたさまがそれを受けてこうお答えになられます。

「ま、まあそうかも知れませぬな。大典侍おおすけどの、それでよろしいでしょうか?」


「勿論に御座いますわ。おでん方様かたさまと共に奥勤めが叶いますなら、さぞや愉快なことにござりましょう。」

 大典侍おおすけ様が仰られたその時、


「ああら、お二方が三役さんやくにお成りになるなら、私とて構わないかしら?」


 おでん方様かたさまを挟まれて大典侍おおすけ様の反対側ののお方が御手おてを挙げられました。

 このお方、大典侍おおすけ様、おでん方様かたさまに比べると少し恰幅の良いお方で、挙げられた御手おての指先を彩る鳳仙花染ほうせんかぞめの濃き赤橙色あかだいだいいろ爪紅つまべに(ネイル)が、皆様の視線を一点に御集めになりました。

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