其ノ二十二 吹き矢のゆくえ

 安子様はその時、薄紅梅うすこうばい色の地に、落ち着いた色目の大ぶりの牡丹ぼたんがあしらわれた御打掛おうちかけを羽織られ、襟元には濃き紅梅こうばい色の半衿はんえり、お足元には唐紅からくれない綿入わたいれ裾袘すそふきが映え、晴れの日にふさわしいにおいやかな出立ちでお立ちになっていらっしゃいました。


 その時、

江島えじま、止めい。」

 御組総取締おくみそうとりしまり春日かすが様の御声が響き渡ると、

「はは。」

 と御右筆ごゆうひつ江島えじま様が、目隠しなされた御錠口おじょうぐち瀧山たきやま様の肩をお叩きになり、

「いざ。」

 とおうながしなさる。瀧山たきやま様は勢い良く、黒光りのする節竹筒ふしたけづつを、皆様の打掛の裾袘すそふきの辺りを目掛けてお吹きになりました。


 すとっ、と刺さる音がすると、色とりどりの御衣装に身を包み輪になられたご婦人方が、まるで花火の如く思わず散り散りにその場をお離れになりました。


「あっ。」


 安子様も動こうとなさるが、どうしてもその場を離れる事がお出来にならない。何故なら、その唐紅からくれない裾袘すそふきには、円錐形えんすいけい赤銅色しゃくどういろの吹き矢が刺さっておいででしたから。


「雪組 御吟味方ごぎんみがた(選出委員)、牧野安子まきのやすこ様に決せり。」


 その場に射すくめられたまま、安子様は春日かすが様のお声を耳にされたので御座います。



第二章に続く。

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