其ノ七 御組分け

雪組ゆきぐみ月組つきぐみ花組はなぐみ……と。太郎は……。雪組に御座いますね。」


 門の内に張り出されたる組分くみわけのご掲示を確認なさると、安子様は大広間おおひろまに急がれました。


 寺子屋の大広間にて、御入学の儀が始まりました。張り替えたばかりの畳の井草いぐさの青い香りの中、お子達はしばし親御様おやごさま達と離れ、前の方に用意された御座ござに、丈立たけだちの小さい方から順にお並びになり、住職様じゅうしょくさま(校長)のおごそかな祝辞を拝聴致します。と申しましても、それは数えおん歳七つ八つのお子達なれば、太郎君たろうぎみもそのほかのお子達も、緊張の面持おももちをお保ちになるのがやっとにて、お足元のむずむずが止まらぬご様子、後ろから我が子を見守る親御様達おやごさまたちも、我が子は大丈夫かしらと、はらはら気を揉む事でした。


「うちの息子、落ち着きが無いもので、本当、大丈夫で御座いましょうか。しんぞうがどきどき致しますわ。」


 お隣にお座りになっている一人のお母御ははごが、安子様に話しかけられました。安子様は急なお声がけに驚きになる一方、そのお方の気取りない笑顔と話しぶりに、ついご自身も微笑ほほえまれ、こうお答えになりました。


「ほんにまあ、うちの太郎もまだいとけなく、お話最後までじっとしていられますかどうか。たいへん心配に御座います。」


 ひそひそ声にて、そのお方としばしお話し致しましたところ、御名おな常磐井ときわい様と申しまして、雪組の太郎君たろうぎみのお隣の組、月組のおのこのお母御ははごでいらっしゃるとのこと。


 安子様は常日頃、一人手ひとりで(ワンオペ)にて、お小さいご自分のお子達こたちとお話をするばかり。その上、今お住まいの屋敷に越されてから間もないという事もあり、話のできる大人と言えばご夫君ふくんは、いつもあのように御遊戯ごゆうぎ(ゲーム)に明け暮れておいででしたから、大人の言葉のわかる御方とお話し出来たのは、いったい幾月いくつきぶりのことであったかと、しばし心たのしいお気持ちになられたのでした。

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