其ノ八 御錠口

 御入学の儀の次第しだいもつつがなく進み、お子様方は、おみ足が痺れるのをこらえながらも、あどけなくも誇らしさでいっぱいの笑顔で、二手に分けたる親御様方おやごさまがたの間に設けましたる花道はなみちを、各々おのおののお母君ははぎみを目で探されながら、大広間を後にして行かれます。


 安子様も、ご愛息あいそく太郎君たろうぎみがつつがなくこのき日を迎えられた事、ご出生の日よりこの日まで、諸々もろもろなされた御苦労などをひとつひとつ思い起こし、寿ことほぎの涙が御目に溢れ出すのでした。


 雪組、月組、花組と、最後の星組のお子達が、愛らしい笑顔を振り撒きながら、大広間からすべて御退場されました。


 お式進行のお師様しさま(教員)が皆様にこうおっしゃりました。


「これから各組ごとの記念御寫眞きねんごしゃしんの撮影が御座います。まず、お子様方にお庭で御整列いただきましてから、御父母の方々が後ほどお庭に御合流、という流れとなります。」


 安子様は、何とは無しにそのお言葉を耳にされました。式の楽しき余韻、寿ことほぎの涙も未だ乾かぬうちに。


 その時にございます。不吉なお鈴の音が、大広間いっぱいに響き渡りましたのは。


「大奥(PTA) 御組総取締おくみそうとりしまり(クラス委員長)のお成り」


 御錠口番おじょうぐちばんのお二人組の女中方じょちゅうがたが、ある一人の威厳ある中年寄ちゅうどしより(役員)を、豪奢な金蒔絵きんまきえの葵の御紋がほどこされたるおふすまから、親御の皆様方が待つ大広間へうやうやしくお通しなさったかと思うやいなや、おふすまを固くお閉ざしになり、がちゃり、と言う大きな音と共に、固くかんざしを差し込んだかと思うと、黄金で作られたる十寸じゅっすんはあろうかと言う巨大な錠前じょうまえの鍵を、しっかりとお閉めになったので御座います。

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