其の四 御遊戯

 安子様は日頃からお子様のお世話は勿論のこと、ご自分のお屋敷の雑多なる御用ごよう一通ひととおり、更には御近所にお住まいの、御病弱なご夫君ふくん御母君おんははぎみのお世話までも担っておられました。一方でご夫君ふくんは、おもて(会社)のお仕事以外、家事はついぞなされた事はなく、安子様が忙しく立ち働く御姿を横目に、御遊戯ごゆうぎ(ゲーム)に打ち込まれていらっしゃる、大変優雅なお暮らしぶりに御座いました。


 せめて御女中おじょちゅうの一人も雇い、わたくしを手伝って頂ければどんなに肩の荷が下りましょう。しかしながら、旦那様は御遊戯ごゆうぎ(ゲーム)の御課金には熱心なももの、その他のお給金きゅうきんの使い道には、とんと吝嗇りんしょくにございます。とてもこのような贅沢な申し出を受け入れてはくれますまい。旦那様は三人目のお子を欲しがっていらっしゃいますが、とてもとても私一人手ひとりでにてお育てするのは無理というもの。すでに授かったこの二人の御子おこに、私の心血を注ぐ事に致しましょう。

 安子様は、明け暮れそのように、一人御心おこころをお決めになっていらっしゃったのでございます。


 その夜、こくをまわり、お子様方がぐっすり眠りにつくのをお見届けになり、ようやっと御遊戯ごゆうぎ(ゲーム)の手をお止めになられたご夫君ふくんは、洗いものをなさっている安子様のお手をお取りになり、こう仰りました。


「ほれ安子、苦しゅうない。ちこう寄れ」

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