其の三 屑籠

 屋敷の庭には桃や梅の花が植えられており、安子様のお子様の、数え三つ(2歳)の姫君は縁側にお出ましになり、御育児支援所ごいくじしえんじょ (子育て支援センター) にて手作りいたしました千代紙のお内裏だいり様とお雛様を、その小さきお手にとられ、そのうち上の太郎君たろうぎみも加わり、お二人とも、それはそれは楽しそうにおままごとに興じておられます。

 そうこうするうちに日も暮れまして、安子様は夕餉ゆうげの御支度をなさりながら、お子様方を見守っていらっしゃいました。


 いぬこくを過ぎたころにございましょうか、ご夫君ふくんがお疲れのご様子でおもて(会社)よりお戻りになり、安子様がお召し替えの手伝いをなさっていると、ご夫君ふくんたくに散らばっている二つの千代紙のお雛様に目をおやりになり、こうおっしゃいました。


「安子、お前は本日は一日何をしておったのだ。」


 安子様はお答えになりました。

「本日は御育児支援所ごいくじしえんじょ (子育て支援センター) にて、お女中方じょちゅうがたとお子達こたちと共に、桃の節句の雛人形など作っておりました。ほれ、ここにこうして」


 安子様は千代紙のお雛様をお手にとり、ご夫君ふくんにお見せになろうとしたところ、

「何だ、安子。お前はわしがおもて(会社)で汗水たらして働いておる間、こんなものを作って遊んでおったのか。」


 ご夫君ふくんはそう言い放たれると、愛らしい雛人形を、屑籠に放り込まれてしまわれました。

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