Part9
サオリやミユキたちが、剣士狩りと戦っている中、ユキは剣士狩りのトップであるリパと対峙していた。
「…」
そんな二人の間には、緊張感が漂っていた。
「進化した俺と戦って、勝つつもりでいるのか?」
「ああ、お前に勝って、剣士狩りの歴史を終わらせる」
「なら、やってみろ!」
リパはユキに迫った。
「んっ」
ユキもリパに向かっていった。
「ん~んっ!」
「ハァア!」
ユキとリパ、二人の剣がぶつかりあった。
「ふふ、やっぱりか」
「?」
「駆け引きの能力はともかく、純粋なパワーで言うなら、サラと同等、あるいはそれ以上の力だな。最高だよ、ユキ。これほど殺したいと思えるのは久しぶりだ。お前を殺して、ここにいる剣士どもに絶望を与えてやる」
「んっ」
「ん、どうしたユキ。まさかこの程度の力で終わりじゃないだろうな」
「(リパ、コイツはやっぱり強い。でも)ボクは」
「あぁ?」
「負ける、訳には、いかないんだ!んっ!」
ユキはリパの剣を力で押し返した。
「っ!」
「んー、ハァア!」
ユキはサラから教わった、相手と戦い、その間に、隙をつくるため、剣を振り続けた。
「んっ」
リパの身体に傷を負わせたユキ。そして、考えさせる間も与えないよう、ユキは攻撃を続けた。
「ハァーーーア!」
ユキの剣はとても速く、そして重かった。最初の頃のユキならば、リパ相手にここまでの威力は出せなかった。
サラの特訓を耐え抜き、そして実戦を繰り返す内に、ユキはどんどんと成長していた。
サラの特訓や実戦経験がなければ、リパ相手に手も足も出なかっただろう。
その証拠に、最初にリパと対峙した時のユキはあっさり敗れた。
だが今は違う。手も足も出なかった相手と、ユキは戦えている。しかも優勢で、動きも速くなっていった。
ユキ自身も、その速さに遅れることなく、リパとの戦闘で、逆にリパの動きが遅く見えるまでに、五感が研ぎ澄まされていた。
今のユキは、極限の集中状態。その場だけで言うならば、その場にいる誰よりも、ユキは強い。
その事に、サラやタックはもちろんの事、リパも気づいていた。
「ぐはっ」
ユキの連撃をくらいまくったリパは、残りのHPも、残り僅かだった。
「…ハァー」
ユキは今の戦いおいて、戦闘に関係のない考えは全て遮断し、リパを倒すことのみを考えていた。
「…ふふ、やるなユキ。正直ここまでとは思っていなかったよ。俺のHPも残り僅か……お前になら、この力を試しても良さそうだな」
「まだ隠していたのか」
「まあな、俺が死ぬと確定しない限り、この能力は使いたくなかった。勝敗がすぐについてしまうからな。だが、お前が相手なら、使っても大丈夫そうだ」
「んっ」
リパは、まだ隠し持っていた能力を、ユキが相手と言う事で、解禁した。
「この場にいる、全剣士狩りに告ぐ。俺に、お前らの全てを捧げろ!」
「!」
リパがそう言うと、剣士狩りは戦いを止め、リパの元に集まった。
「なにを」
ユキも警戒する。
「ふふ」
「(全てを捧げろ?一体…!まさか)んっ!」
ユキは、能力こそ分からなかったが、その能力を使わせるとマズイ、そう直感し、能力を使わせまいと、リパの方に向かって行ったが、既に手遅れだった。
「ハァーーー!」
「んっ」
リパの最後の能力、それは生命体が宿している力、つまりは魔力を魂ごと吸収し、我がものにする力だった。
「ふふ」
「あ…」
姿こそ変わらないが、圧倒的な魔力量にユキを含め、みな驚いた。
そしてリパのHPは、半分まで回復した。
「ふふ、さあ、第二ラウンドだ、ユキ!」
「!」
リパの動きは、明らかに今までと違い、とても速かった。
ユキも、なんとか防いだが、パワーでは明らかに、リパの方が上だった。
「さあ、さっきまでの勢いはどうした!」
「んっ、んー」
他の剣士たちは、加勢に行きたかったが、ユキとリパの空間は、異次元だと、そう感じた。その為、加勢に行った所で、足でまといでしかないと分かっているから、助太刀には行けなかった。
「ふふ、キツそうだな。ならこれはどうだ!」
「!」
リパは剣と化した両手に、身体中に溢れまくっている魔力を込め、ユキを吹き飛ばした。
「んっ」
吹き飛ばされたが、なんとか体制をなおそうとしたユキ。だがそんな暇を与えさせまいと、リパはユキに迫り、剣を振り下ろした。
「!」
リパの速い剣に、ユキは反応が遅れ、避けれない、そう思った。だが次の瞬間、サラがユキを守るため、ユキの前に出た。
「サラさん!」
「っ!」
「ハァ!」
呪いで存分に力を出せないサラだったが、弟子であるユキを死なせない為、前に出て、剣でガードする姿勢をとった。
だがリパは、そんなサラでも容赦なく、全力で剣を振り下ろした。
「くっ」
「サラ、お前は」
「んーん」
「どいてろ!」
「ぐっ、かはっ!」
「!」
サラはリパに吹き飛ばされた。
「ぐっ」
「ふん、そんな身体で、俺に挑んだのが運の尽きだったな」
「っ」
「あ…」
ユキは固まった。だが、次の瞬間、ユキは剣を握り、自身も分からない程の速さで、リパの元へ迫り、覚醒したリパを吹き飛ばした。
「アーーー!」
リパに向かっていった最中、ユキの姿が変化した。赤眼に白髪の状態、言うなれば、覚醒状態に。
「!?ぐうっ!」
リパも余りの出来事に、反応しきれず、吹き飛ばされた。
「ハァ、ハァ」
「っ、なんだ、今のは、!?」
リパも、ユキの変化した姿を見て驚いた。
「なんだ、その姿は。それに、その魔力量」
「ハァ…ふー、はぁー。決着をつけよう、リパ」
「くっ、姿が変わったからと言って、なめるなー!」
リパはユキへと迫り、剣を振り下ろした。
「…ん、あ…」
「…」
覚醒したリパの剣を、ユキは片手で止めてみせた。
その衝撃の光景に、ユキを除いた全ての者が驚いた。
「ば、バカな」
「今度は、こっちの番だ」
「!」
ユキは片手でリパの剣を持ちながら、構え魔力を剣へと流した。
リパはユキから離れようとしたが、ユキのあまりのパワーに、剣が動かなかった。
このままでは殺られる、剣士狩りを始めてから、初めてリパは、生きること優先し、剣と化した両手を手に戻し、離れ、バリアをつくろうとした。
「んっ」
だがユキは、リパに時間を与える間もなく、バリアをつくっている途中の段階で、魔力を込め終え、離れたリパに、目では追えない速さで移動し、リパの頸を斬った。
「ハァーーア!」
「!あ…バカ、な」
あまりの速さに、リパは反応しきれず、あっという間に、半分まであったHPも全て削られ、リパは消滅した。
リパを倒したユキ。他の剣士狩りをリパが全員取り込んでいたのもあり、全ての剣士狩りを、倒すことに成功した。
「…」
ユキはサラの方へ歩み寄る。
「ユキ…」
「良かった、サラさんが、無事、で…」
ユキは身体に溢れていた全魔力を使ったために、限界を超えていた。覚醒状態は解かれたが、気がついた時には、ユキは気を失い、倒れていた。
数分後、ユキは目を覚ました。
「んっ、んーん」
「!ユキ!」
「お姉ちゃん!」
「サラさん、ミユキ」
ユキはサラの膝の上で目覚めた。
「良かった、倒れた時はどうなるかと思ったぞ」
「…すいません」
「…でも、生きていてくれて良かった」
「目が覚めたようだな、ユキ君」
「!ユウマさん」
ゆっくり起き上がるユキ。
ユキが気を失っていた間、ユウマたちも剣士狩りを倒し、サラたちと合流していた。
「サラから聞いた。よく頑張ってくれた。一人も犠牲者を出すことなく、リパを含めた剣士狩りを、全員倒せた。見事だよ」
「はい、ありがとうございます」
「それと、リパを倒す際に、姿が変わったと聞いたが」
「…」
「どうした」
「実は、その時の記憶、あまり覚えてないんですよね」
「…それほど集中していたと言う事か」
「サラ、ユキが目を覚ましたって?」
「ユキさん、良かった」
「あぁ、目が覚めたよ、タック、サオリ」
「そうか、それは良かった」
「…ユウマ」
「ん?どうしたサラ」
「あの件、ここで話してもらえるか?」
「…あぁ」
「あの件って、なんですか?」
「ユキ君、そしてサオリ君。君たち二人は、ランキング上位者に相応しい、だから、ユキ君が第二位、そしてサオリ君を、第三位となることを、ここに認める」
「!?」
ユキもサオリも、いきなりの事に驚いた。
「私が、第三位」
「ボクが、第二位」
「あぁ、サオリ君の事はもとより、サラからよく聞いていた。だから、第三位だが、ユキ君、君は、今回の作戦において、英雄の如く活躍してくれた。それで考えた結果。第二位に相応しい。ユキ君もサオリ君も、ランキング上位者に相応しい」
「…え、でも、ランキング第二位には、サラさんが…」
「あぁ、その事だが」
「…私は、剣士を引退する」
「え…どうして」
「ユキやユウマには話したが、この際だ。タック、サオリ、ミユキ、君たちにも話す。私は、モンスターに呪いをかけられた。その呪いは、肉体寿命の急成長だ。前までは大丈夫だったが、今回の戦いを通して、私には、もう時間がないことがわかった。激しい戦闘の後になると、血を吐いてしまってな。もう限界なんだ」
「そんな」
「そんな呪いが」
「サラよ、なにか治す手はないのか?」
サオリもミユキもタックも、サラの発言には、やはり驚いた。
「残念だがタック、私も色々尽くしたが、治す手はない」
「そんな…」
サラの呪いは、見た目の変化はないが、激しい戦闘後には、血を吐いてしまったり、体力がどんどん落ちていってしまうものだった。
「ユキ、私の変わりに、ランキング第二位を引き継いでくれ。君になら、安心して任せられる」
「…」
「?どうしたユキ」
「サラさん、剣士は引退かもしれないけど、絶対、絶対ボクが、サラさんの呪いを解く方法を探します。だから、それまで生きて、待っていてください」
「……あぁ」
「!」
「他ならぬユキの頼みだ。信じて待ってるよ」
「…呪いは、絶対ボクが解きます」
「あぁ、見つけてくれ」
「はい!」
こうして、剣士狩りとの戦いは、誰一人犠牲になることなく、幕を閉じた。
そして、数ヶ月たったある日、ユキとサラは、森に集まり、話していた。
「…」
「サラさん」
「お、来たかユキ」
「すいません、遅れてしまって」
「…今やユキはランキング第二位だからな。忙しいのは知っているよ」
剣士狩りとの戦いから数ヶ月後になった今、ランキング第二位にはユキ、第三位にはサオリが、ランキング上位者として、務めを果たしていた。
「…それにしても、あの日以来ですね」
「あぁ」
「呪いの事なんですけど」
「なにか分かったのか?」
「いえ、まだ。でも、絶対見つけますから」
「…焦るなよ?まだまだユキは生きるんだからな」
「サラさんもですよ」
「あぁ、生きてやるさ。抗うと決めたからな」
「…そうだサラさん」
「ん?」
「前にサラさんが言っていた。気になる男子って、誰なんですか?」
「あー、そんな事言ってたな。好き、というか、私が一方的に知っているだけだが、ユキやミユキがやっていた修業と同じように、森で特訓している二人の少年がいてな。たまたまそこを通った時に、その内の一人の少年が凄く輝いて見えたんだ。名前は確か、そうだ、アスタって言っていたな」
「アスタ」
「あぁ、ユキ」
「はい?」
「私からお願いがあるんだが、いいか?」
「なんです?」
「アスタって少年と、もう一人の、フェイという少年、その二人が、もし危ない目にあっていたら、助けてあげてくれないか?」
「それは良いですけど、なんでです?」
「剣士狩りは確かに倒した、だが、いつまた剣士狩りのような存在が現れるか分からない、だから、その時はユキが守ってあげてほしいんだ」
「…分かりました」
「ありがとう。あ、そろそろダンジョン調査か」
「そうですね」
「じゃあ、頑張ってな」
「はい。サラさん」
「ん?」
「また、会いにいきますから」
「…あぁ」
「…ではまた」
「うん、またな」
サラとユキは話を終え、サラは家に、ユキはダンジョン調査へと向かった。
「(アスタ、どんな人なんだろう)」
帰りながら、ユキはアスタの事を考えていた。
だが、この時のユキは、知る由もなかった。今から行くダンジョン調査で、その少年、アスタと出会うことを。
そして約一年半後、薬の専門家の剣士という、希望の存在が現れることを。
蒼き英雄 リスタート 完
銀花の英雄 雨宮結城 @amamiyayuuki0523
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