偽った言葉

裏腹な言葉

俺は何をほざいているのだろう。


「なんで倫華りんかと俺が付きあわなきゃいけないんだ」

「…やっぱり…克己かつみは私のこと…何とも思ってない…よね…」

「当たり前だろう。お前は只のクラスメイトだ」




…嘘だった。倫華とは、中学の時同じクラスになって以来、ずっと仲の良い友達で…だった。しかし、倫華を意識し始めるのに、時間はかからなかった。それは、他の男子連中もおんなじで、倫華は美人と言うわけではなかったが、ボーイッシュで、笑顔を絶やさず、男女ともに好感度は高かった。


特に、男子の中では、密かに倫華に思いを寄せる奴は多かった。


高校に入っても、それは続いていた。そんな倫華と、俺はいつもつるんでいた。そんな俺に、ある日、じょう夜斗ないとがこう問いかけて来た。


「なぁ、克己、お前、元原もとはらと付き合ってんの?」

「え?」

「お前…抜け駆けするつもり…とか無いよな?」

「…なんだよ、それ」

「なんだよ…って、当たり前だろ。克己、元原のこと、下の名前で呼ぶし、休み時間中ずーっと話してるしよ」

「…」


俺は、押し黙った。そうか、か…。そうなるのか…。恋愛にうじうじするのは、女だけとは限らないのか…。


「俺たちを裏切ったりしないよな?克己」


夜斗は俺の瞳を覗き込みそう囁いた。




「ねぇ、克己、今日妹の誕生日プレゼント、買いに行きたいんだけど、付き合ってくれない?」


譲と夜斗が、俺に釘を刺した翌日、倫華はいつも通り、俺に笑顔で話しかけて来た。俺は、そっと視線を逸らして言った。


「イヤ、今日部活遅くなるからダメだな…」

「え…?そう…なの?」

「あぁ」

「そっか。じゃあ仕方ないね」


変なの。みたいな顔をして、倫華が離れて行く。その5日後だった。倫華が俺に告白してきたのは。


「ねぇ、克己、私ずっと克己が好きだったの…。付き合って…くれない?」

「なんで倫華と俺が付き合わなきゃいけないんだ」


倫華は、その瞬間、とても悲し気な顔をした。


俺は、何をほざいているんだろう。良いじゃないか。他の男子にどう思われようと、倫華の気持ちと、俺の気持ちはおんなじなんだ。受け止めれば良いじゃないか…。


自分の心とは、裏腹な言葉が、口から零れる。後悔が押し寄せる。



それから、俺と倫華は話す事は、なかった―――…。

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偽った言葉 @m-amiya

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