第18話 オオカミ少年の末路【side:ゴーヨック】


「ふん、あんな馬鹿な罠師野郎は追放したぜ。今頃どっかで野垂れ死んでるだろうな」

「は……?」


 その瞬間、周りの空気が凍り付いた……。

 なぜだろうか、村の面々が俺に白い眼を向ける。

 俺は、こんな感じを前にも味わったことがあるぞ……!


 そうだ、俺がまだ子供で、この村にいたころ。

 俺がちょっとなにかを話すと、こんなふうになった……!

 いつしか俺は、ホラ吹きゴーヨックと呼ばれるようになっていたんだ。


「はぁ……まぁたゴーヨックのホラか……呆れたぜ……。バカも休み休み大概にしろよ? あの天才のシンを追放するなんて、そんな馬鹿な真似……。まさか、本当なのか……!? お前、本当にあのシンを追放しちまったのか……!?」


 おっさんがため息をつく。

 待ってくれ……俺は真実を話しただけだが?

 子供のころからそうだ。

 俺は自分の考えを言っているだけなのに、大人たちは聞く耳を持たない。


 それにしても、あのシンのことを天才だと?

 昔からこの村の連中は、シンを過大評価しやがって……!

 意味が分からない。

 あんなやつ、ただのなにもできない罠師だぞ?


「あのバカを追放して何が悪い!」

「お前は馬鹿だから、シンが面倒をみてくれると思ってたのに……。わざわざ追放するとかバカなやつだなぁ……本当に……。どうせ勇者だってのも嘘なんだろ? もういいよ……。懐かしいから最初はお前の話に付き合ってやろうかと思ったが、いい加減こっちも忙しいんだ。そんな嘘の武勇伝を語りに来ただけなんだったら、俺たちはもういくぞ? 解散だ解散」


 おっさんがそう言うと、村長の家に集まっていた村人たちが一斉に、蜘蛛の子を散らすように帰り支度を始める。

 やれやれといった感じで、玄関に向かっていく。

 どうして誰も、信じてくれないんだ!


「ちょ、ちょっとみんな待ってよ! ゴーヨックの言うことをきいてあげて! 彼は変わったんだから!」

「そうだそうだ!」


 アカネとマーリーが後ろから俺を応援してくれるが……。


「でもなぁ……ゴーヨックだしなぁ……。もしかしてアカネちゃんもマーリーちゃんも、ゴーヨックに操られてんじゃねえか?」


 誰かがそんなことを言った……。

 それを皮切りに、俺への批判が殺到する。


「いかにもありそうな話だ! あのゴーヨックなんだから、それくらいしてもおかしくない!」

「どうなんだゴーヨック! シンはどこなんだよ! その勇者の証だって、本当はシンのものだったんじゃねえのか!? どうせシンにまた嫉妬して、無理やり奪ったんだろ!」

「たしかにそうかもな! シンなら勇者に選ばれてもおかしくない奴だ!」


 村人たちが次々に俺を責め立てる。

 嘘だろ……!?

 事実ではシンがゴミクズ嘘つき野郎で、俺が勇者だというのに……!

 人を扇動するとこうも簡単にデマがまかり通るのだな……と俺は感心する。

 冤罪はこうして生まれるのか……恐ろしい。


「違う! シンはゴミクズ詐欺野郎だったんだ! その証拠に、俺はあいつのせいでゴブリンにケツを犯されたんだぞ!」


 俺はガバガバに広がった自分のケツ穴を、みんなに見せて抗議した。

 村人たちはそれを奇異の目で見つめ、後ずさる。

 どうやら俺のこの行動は、火に油を注ぐものだったらしく……。

 村人たちからの疑いの目はよけいに強くなった。

 ――ざわざわざわ。


「ひ……!」

「うげ、キモ……」

「おいおいマジでこれゴブリンのかよ!?」

「だったらマジでゴーヨックキモすぎ……」


 まったく田舎者どもには困ったものだ。

 俺が勇者であることは明白なのに……。

 どうやればこの未開の猿どもをわからせられるのか……。


「クソ……! お前たち、そんなに信じられねぇんだったら、俺を鑑定すればいい! 俺を鑑定すれば、ちゃんとステータスに【勇者】と書かれているから!」


 俺は至極まっとうなことを言ったつもりだ。

 それなのに……。


「おいおい、鑑定にいくらかかると思ってんだ? お前のくだらねえデマを証明するために、わざわざ誰がそんなことをするんだ?」

「そうだそうだ! それに、この村には鑑定士なんて当然いないし、連れてくるにしてもかなり時間がかかるだろ! 鑑定なんてできないことがわかっていて、適当なこと言ってんじゃねえぞ!」


 村人たちはどうやっても俺を信じないつもりらしい。

 くそ……。


「もういい……! 貴様らは魔王との戦いになっても、守ってやらないからな!」


 俺はそれだけ言って、村長の家から出た。


「おい、お前ら行くぞ……」

「あ、待ってよゴーヨック!」


 誰がなんと言おうと、俺にはアカネとマーリーがいるんだ。

 まあ村の娘たちを抱けないのは惜しいが、その分こいつらに慰めてもらおう。


 まだ俺が去ってもいないのに、村長の家に残った村人たちは俺の悪口を言いだした。

 全部聞こえているのだが……?


「うわ、ゴーヨックだっせぇ……捨て台詞吐いて逃げるとか」

「さすがは大ぼら吹きだな……冒険者になるっていって村を出たくせに、まったく成長してねぇ。それどころか、嘘の規模が大きくなっている始末」

「シンはマジでどこなんだ? ゴーヨックのことがマジで疑わしくなってきた……まさか、追放どころか殺してないだろうな?」

「アカネちゃんとマーリーも可愛そうだよな……。あんなに可愛いのに、ゴーヨックなんかに騙されてたぶらかされている……」


 クソが……!

 何とでも言うがいい!

 運命は、俺にほほ笑むのだから――!


「この嘘つきめ! シンをどこにやった! 追放したってのも嘘なんだろ!」

「どうせシンもお前たちが殺したんだろ!」


 クソ……村人たちはどんどんヒートアップしていく。

 俺たちに石を投げつけてくる奴もいた。

 まあ、冒険者として鍛えてあるから石なんて痛くもないが。


 村人たちは、俺たちを追いやるように迫って来た。

 そしてこんなことまで言いだした。


「お前はうそつきの人殺しだ! この村を出ていけ! そして二度と帰ってくるな! それがランタック村の総意だ!」

「ほんとうは村人全員でシンの仇を取ってやりたいが……まだ確証がないからな! 今なら追放で許してやろう! さあ消え失せてくれ!」

「お前の悪行は念のため、町の警察に報告しておくからな!」


 などと言いながら、石を投げつけてくる。

 クソが。

 俺が本気をだせば、こんな糞ども皆殺しなのに!

 まあ、さすがに俺も故郷の村を焼き討ちにしてやるつもりはない。

 だが、いずれ魔王に焼かれてしまえばいい! そう思うのだった。


「……俺は魔王を倒すぜ!? そのときになって謝っても遅いからな! 俺の名を轟かせて、認めさせてやる!」


 俺が勇者として活躍をすれば、勇者ゴーヨックの名が国中を駆け巡ることになる。

 そうすればこのド田舎の村までもそれが伝わり、俺を真の勇者だと認めざるを得ないだろう。

 だから、俺は今ここに決意した!

 俺は勇者としてちゃんと戦い、魔王を討つ!

 それなのに……。


「うるせぇえ! 嘘つきめ! やれるもんならやってみろ!」


 村人たちはどんどん俺たちに石を投げてくる。


「クソ……いくぞ、お前ら!」

「う、うん……ゴーヨック!」

「こんなクソ田舎のサルたちは忘れて、行きましょう?」


 そうだ、俺には可愛いパーティーメンバーが二人もいるのだ。

 こんな村、知ったことじゃない。

 こうして俺は、改めて勇者としての決意を固め、故郷を再び旅立った――。

 まずは手始めに、近場のダンジョンをすべて攻略してやろうかな。



【あとがき】


こちらの小説の短編版を小説家になろうにも投稿しました!

ぜひそちらもよろしくお願いします!

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