第15話 ゴブリン穴掘り部隊
「イストワーリア……」
「はい、マスター。リアとお呼びください」
イストワーリアと名乗ったその美少女は、俺の前に跪いた。
どうやらこの子が、俺の最初の味方らしい。
えっと、ダンジョンサポーターってことだから、イストワーリアにいろいろと聴けばいいのかな。
まずは、そうだな……。
イストワーリアを召喚するために、全部のDPを使っちゃったからな……。
まずはDPの溜め方をしりたい。
「イストワーリア、このDPってやつの溜め方を教えてもらえるか?」
「はい、かしこまりました。DPは、基本的には敵を倒したときに手に入ります。それか、ダンジョンのレベルが上がったときなどにもボーナスでもらえますね」
「ふむふむ……まあ、そんな感じだよな」
敵っていうのは、ダンジョンに入ってきた冒険者のことだよな。
まあ、このまだこのダンジョンにはろくな設備もモンスターもいないから、なかなか敵を倒すのは難しそうだ。
俺は攻略しやすいように、簡単なダンジョンを選んでいた。
ダンジョンコアさえ手に入ればそれでよかったからな。
そもそも、このダンジョンにはろくな宝箱もない。
だから、なかなか冒険者もこのダンジョンにはやってこないだろう。
「他にも、ダンジョン内でモンスターが死亡すると、DPが溜まります。例えば、スライムが死ぬと、スライムを召喚するのに必要な100DPの半分が戻ってきます」
「なるほど」
つまり、今すぐDPを手に入れようと思えば、ダンジョン内のモンスターを間引けばいいわけだ。
だが、さすがにそれはなぁ……。
自分のダンジョンのモンスターを間引くのは、忍びない。
じゃあやっぱり、DPを手に入れるには冒険者を倒さないといけないわけか。
でも、なんの罪もない冒険者を殺したり、身ぐるみはいだりするのも気が引けるな。
まあ、冒険者には恨みもある。
俺は罠師というだけで、他の冒険者仲間からもよくいじめられたものだ。
ゴーヨックが俺の悪評をあることないこと垂れ流すから、俺はよくからかわれたり、虐められた。
俺は社会全体からも虐げられ、冒険者全体を恨んだこともあった。
だけど、それだけで殺す気にはなれない。
でもDPを溜めてダンジョンを運営していくには、冒険者と戦う必要があるからなぁ。
とりあえず、積極的に殺すことはしないでおこう。
殺すのは、あくまでこちらの命が脅かされたときだけだ。
今現在、このダンジョンには10体のスライムと、5体のゴブリンしかいない。
なのでとりあえず防衛用にいくつか罠を設置してみることにした。
まずは掘削トラップで落とし穴を掘る。
落とし穴の下には、針山トラップだ。
それから、スライム床。
壁トラップやダミートラップもつかって、落とし穴に全力で誘導だ。
落とし穴にはトラップドアを設置し、その上から土をかぶせてカモフラージュ。
「これでばっちりだ!」
これでもしもの場合も、ダンジョンを守ることはできる。
そう思っていると、イストワーリアがとんでもないことを口にした。
「あ、ちなみにですが……。ダンジョンを攻略され、ダンジョンコアを壊されるとマスターも死にます。なので、絶対に冒険者に壊されたりしないでくださいね!」
「え……マジか……」
とんだ罠だった。
どうやら俺は、自分の意思とは関係なしに、冒険者と戦わなければいけないらしい。
生き残るために――。
もちろんこちらからはしかけないが、ダンジョンを攻略しにきた冒険者に関しては戦ってもやむなしだろう。
◆
とにかく、このダンジョンはまだまだ小さい。
ダンジョンとは名ばかりの、ほんの小さな洞窟みたいなもんだ。
まだ複雑な分かれ道もなければ、階層だって一個だけだ。
もっと罠やモンスターも増やしたいが、その前にまずはダンジョンを拡張しなきゃだな。
だけど、ダンジョンの拡張にもDPがかかる。
ダンジョン拡張のコマンドを使うには、一回当たり50DPも消費する。
そんなのいちいち支払っていたら、DPが無限にかかってしまう。
俺の掘削トラップでダンジョンに穴を開け、広げていくという方法もあるが、それだと金がかかりすぎる。
いったいいくつの掘削トラップを用意すればいいんだって話だからな。
そこで俺は、名案を考えた。
「ゴブリンに、掘らせればええやん!」
「それは名案ですね! さすがはマスターです!」
イストワーリアも、俺の案に賛成のようだ。
俺はダンジョンにいる5体のゴブリンを招集した。
そして、アイテムボックスからスコップを取り出す。
スコップは街に出たときに買っておいたものだ。
「よし、ゴブリンくんたち、このダンジョンに穴を掘って、どんどん拡張していってくれ!」
俺はゴブリンたちにそう命じた。
しかし、ゴブリンたちは首をかしげるばかりだ。
どうやら俺のだした命令が複雑すぎて、ゴブリンたちには理解できなかったようだ。
イストワーリアが、俺に説明を加える。
「マスター、ゴブリンさんたちは、そんな高度な命令はきけませんよ?」
「そうなのか……。くそ、いい案だと思ったんだがな……」
「大丈夫です。ゴブリンさんたちに、名前をつければいいんですよ」
「名前……?」
イストワーリアの説明によると、どうやらダンジョンマスターはモンスターに名前を与えられるようなのだ。
そして、モンスターに名前を与えることで、モンスターは上位種に進化できるそうだ。
ただし、俺の魔力がちょっとばかし吸い取られるとかで、回数に上限はあるようだが……。
モンスターに名前を与え、上位種に進化すれば、知能も上がって、難しい命令にもこたえられるようになるらしい。
「よし、じゃあ名前を決めるか……」
「ゴブゴブ……!」
俺はゴブリンたちを一列に整列させた。
「ようし、右から……ゴブちん。ゴブ太。ゴブ蔵。ゴブ吉。ゴブ丸だ!」
俺がそう名付けると……。
ゴブリンたちの筋肉が、ムキムキっと膨れ上がった。
そして、背も高くなった。
ゴブリンたちの顔つきがきりっとして、前よりもどこかたくましくなったような気がする。
「ご主人、我々に命令を……!」
「うお……!? キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ! 」
なんと、進化したゴブリンたちは人間の言葉まで話せるようだ。
さしずめ、エリートゴブリンってところか。
「よし、お前たちは穴を掘れ! 掘るのは得意だろ?」
「了解であります!」
俺が命令すると、ゴブリンたちはスコップを握り、一心不乱に穴を掘りだした。
ようし、これであとは放っておくだけで、どんどんダンジョンのエリアが拡大していくぞ!
俺はしばらくゴブリンたちの仕事ぶりを眺めていた。
どんどん壁が掘削されていき、ダンジョンが広がっていく。
仕事熱心で頼もしいかぎりだなぁ。
エリートゴブリンたちの腕はムキムキで、疲れ知らずだ。
しばらくそうやって彼らの仕事ぶりに感心していると――。
掘った穴から、なにやら宝石のようなものが飛び出してくるのが見えた。
ゴブリンたちが掘った土の山から、青白く光る鉱石がポロンと零れ落ちる。
「なんだこれ? 鉱石か?」
モンスターを倒したときのジェムに似たような、なにか宝石のようなものが、ダンジョンの壁から飛び出してきた。
ゴブリンたちはそれを拾って俺の元へと持ってくる。
ものすごいどや顔で、どうだ! と俺にそれを見せつける。
不思議そうに眺めていると、イストワーリアが説明をくれた。
「マスター、これは魔石ですね」
「魔石……?」
「ダンジョンの壁に含まれてる魔素が具現化したものです。これを拾ってダンジョンコアに捧げれば、DPと交換もできますよ」
「マジか……!」
この謎の鉱石が、DPに変わるなんて、そりゃあうれしいぜ。
俺はゴブリンから魔石を受け取り、よくやったと褒めてやる。
褒めてやると、とても満足そうな顔で採掘に戻っていった。
まるで犬だな……。
あんな緑のおっさんでも、かわいいところがあるもんだな。
「この魔石を……DPに変換できるんだな? それ!」
俺はさっそく、魔石をダンジョンコアに捧げてみた。
――しゅううううん。
俺がダンジョンメニューから指示すると、魔石は地面に吸い込まれていった。
ダンジョンコアに取り込まれたんだ。
《魔石×1は50DPに変換されました――!》
「お、成功したようだ」
システムメッセージが、それを知らせる。
お、もしかしてこのゴブリン穴掘り部隊作戦はかなりいいんじゃないか?
こうやってゴブリンに穴を掘らせておけば、勝手にダンジョンが広がるし、DPも溜まるじゃん!
もしかして俺って、ダンジョン経営の才能があるんじゃないか?
あとは、惰眠を貪っておけばDPがたまっていく。
経験値だって自動で溜まっていくし、俺は放置してるだけでウハウハだ。
「ようし、もっといろいろと自動化していくぞ!」
「ま、マスター! さすがです! イストワーリアは感嘆いたしました! マスターは天才ですか!?」
「へへへ……まあな」
俺たちはハイタッチした。
この可愛い助手と一緒なら、最強の最難関ダンジョンが作れそうだ!
なんだかそんな気がする。
◆
この時の俺は見逃していた――。
自分のステータスに、サブ職業が追加されていることを――。
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名前 シン・ラトップ
職業 罠師(サポート)
サブ職業 ダンジョンマスター
男 16歳
レベル 50
体力 3615
魔力 1925
攻撃力 2442
防御力 2354
魔法攻撃 2598
魔法耐性 2513
敏捷 2522
運 2673
スキル一覧
・針山トラップ
・トラバサミトラップ
・経験値貯蓄トラップ
・掘削トラップ
・トラップドア
・毒餌トラップ
・スライム床
・ダミートラップ
・壁トラップ
・ダンジョンコア制御トラップ
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◆ダンジョン情報
イストワーリア×1
スライム×10
ゴブリンエリート×5
DP 50
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