第7話 シンの真価 【side:ゴーヨック】


 シンを追放したことで、俺たちは順風満帆になるはずだった。

 しかし、どういうことか思い通りにならないことばかりだ。


「くそ、俺はさっさとマルダ神殿に行きたいってのによ!」


 俺がシンを追放した理由のひとつが、それだ。

 マルダ神殿に行って、俺は上級ジョブを手に入れようと思っていた。

 この世界では、レベルが50になると、普通の一般職とは別に、上級ジョブというのが得られる。

 俺のレベルが50になったからな、俺は上級ジョブを得られるようになった。

 上級ジョブは、マルダ神殿に行くことで、その人にふさわしいものが神から与えられる。


 上級ジョブを得られれば、俺はさらに最強になる。

 だから、もはや罠師みたいなクソ雑魚をパーティに入れておく必要がなくなったってわけだ。

 ちなみに、俺様の今の職は戦士だ。

 勇者ってのは、あくまで王様からもらった称号みたいなものだな。

 

 くそ、昨日から上手く行かないことだらけで、イライラするぜ。

 戦闘も雑魚に苦戦するしよぉ。

 いいことがないぜ。

 だが、さっさとマルダ神殿に行って上級ジョブさえ手に入れれば、こんな生活ともおさらばできる。

 俺の真の価値が発揮されるのだ。


「ようし、さっそくマルダ神殿に行こうぜ。おいアカネ、マーリー、地図を出せ」


 俺は女どもにそう命令する。マルダ神殿は結構遠いし、地図をみないと場所がわからない。

 だが――。


「…………」

「どうした? 早く出せ!」


 俺はイライラした声を女どもにぶつける。


「地図なんてないわよ? それはシンの担当だったじゃない」

「あ……? そうだった……………………」


 クソ……。

 マッピングスキルも、アイテムボックスも、全部シンの仕事だった。

 なぜクソゴミのあんな奴に、俺はそんな重要な役割を任せていたのだ?

 我ながら、昔の自分の行いが腹立たしい。


「じゃあ代わりの人間を雇おう」

「は? なに言ってんの? どこにそんなお金があるのよ?」

「う、うるさい……!」


 まったく……なにをするにも金か。

 シンのアイテムボックスに預けていたせいで、すべて持ち逃げされてしまったからな……。

 なぜ未来の勇者であるこの俺が、英雄であるこの俺が……!

 金なんかで苦しまなければならないのだ?


「仕方がない。金を手に入れるためだ。クエストでも受けるか」

「そうね、それが一番手っ取り早いわ」


 俺たちはギルドへと向かった――。





 ギルドに行き、俺は受付嬢に話しかけると――。

 受付嬢は、俺におかしなことを言ってきやがった。


「その……ギルドカードはお持ちでしょうか……?」

「は…………? なんだそれ?」


 俺は一瞬、受付嬢に言われた言葉がわからなかった。

 ああ……そういえば、ギルドでクエストを受けるには、ギルドカードなるものが必要なのだったな……。

 だが、俺は自分のギルドカードなどというものを、一度たりと目にしたことはなかった。


「ゴーヨック……その、ギルドカードってもしかして……」


 マーリーが俺に耳打ちする。


「何ぃいい……!?」


 どうやらギルドカードの管理も、シンがやっていたようだな……。

 クエストを受けるたび、パーティーメンバー全員分を一括で渡していたようだ。


「ギルドカードは……ない……」

「紛失ですか? でしたら、お作りしなおすこともできますが」

「ああ、頼む」

「でしたら、再登録料が500ギルガスになります」


 受付嬢は笑顔で残酷なる金額を告げた。





「クソ……どこに行っても金、金、金! この世の中は、腐っている! こんな世の中、間違っているだろう!?」


 俺はボロボロになった服を引きちぎりながら、怒りをぶちまける。

 アイテムボックスに替えの服を入れていたせいで、服がどんどん臭くなる。

 アカネもマーリーも、汗でべっとりした服を、今にも脱ぎたそうにしている。


「ほんとよ……まったく……これもぜんぶシンのせいだわ……」

「ああ……本当に、いい迷惑だ」


 なんで英雄である俺様が、こんな目に遭わなければならない!?

 いや、こんな理不尽は間違っている!


「そうだ、いいことを考えたぞ!」


 俺は、とりあえず人気のなさそうな一軒家を探し出した。


「邪魔するぜぇ」


 俺はその一軒家に、堂々と押し入る。


「な、なんだアンタらは!?」


 髭面の中年親父が、飯を床に落とし、驚いている。

 こんなモブに用はない。


「俺は勇者さまだ。お前の家の物を、ありがたく使ってやるから感謝しろ? 末代までの誇りにして、語り継ぐといい。そのくらいの特権は許してやろう」


 俺は言いながら、食卓に並んでいたパンをひとつ頂戴する。

 昨日から何も食べていなかったのだ。

 勇者はなにをやっても許されるからな。

 ありがたく思ってほしい。


「あ! これおいしー!」


 アカネもなにか適当につまみ、阿保っぽい声を上げる。


 マーリーはマーリーで、家の中を物色し始める。

 壺を割ったり、タンスを破壊したり。


 そんな俺たちのようすを見て、家主のおっさんは、なぜだかわなわな震えだす。

 そんなに光栄に思っているのだろうか?


「ふ、ふふふ……ふざけるなぁあああああ!!!!」

「…………!? なんだと!? キサマ今何を言った!」


 おっさんの意外な言葉に、俺は憤慨する。

 感謝こそされても、怒られるなんて、おかしいだろ?


「おい、そのおっさん、口を縛ってそのへんの柱にでもくくりつけておけ」

「はーい!」


 アカネがさっそく、おっさんを縛る。


「な、なにをするんだ! やめろ!? あんたら正気か!?」

「フン……正気じゃないのはお前のほうだ。俺は勇者さまだぞ!?」


 クソ……むしゃくしゃする。

 こうなったら女でも犯さないと。


「お……ラッキー!」

「や、やめろ……! 娘にだけは手を出すな!」

「うるせんだよ!!!!」


 俺は家具の隙間に隠れていた、おっさんの娘を見つけた。

 これはいい拾い物をしたな。


「はっはっは! この世のすべては俺のものだ!」





「クソ……! 離せよ!」


 どうしてこうなった――!?

 俺は城の兵士複数人に、腕を掴まれ、連行されている。

 どうやら城へと連れていかれるようだ。


「俺が何をしたっていうんだ! 俺は勇者だぞー!」

「まるで子供だな……」


 兵士の一人がぽつりと言った。


「は……?」


 俺はそいつに向けて、殺意を飛ばす。


「ひ……!」


 兵士がひるんだ隙に、俺は振り払おうとする。

 しかし――。


「貴様! クソ! 取り押さえろ!」

「うわ! なにをするんだー!」


 だがさすがの俺も、屈強な兵士たち複数人に取り押さえられると、なす術がない。

 さすがは王国最強の兵士団だ。


 まあそんなこんなで俺は、気絶させられ、王城へと連行された。

 腕には魔力封じの腕輪までしてある。

 なんということだ、これでは勇者ではなく――。


 まるで罪人ではないか。




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名前 ゴーヨック・ハツメルス

職業 戦士(タンク)

男 16歳


レベル  50

体力   3251

魔力   1855

攻撃力  3310

防御力  3152

魔法攻撃 1213

魔法耐性 2787

敏捷   2113

運    2781

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