向き合うこと

             ☆


一人で、こんな所まで来るのは初めてだった。

道に迷いながら、都会の人混みに揉まれながら。

やっと辿り着く。

そして、向き合おう。


「雪兎先輩‼」

 社長室のドアを勢いよく開く。

 そんな俺を雪兎先輩は冷めた声で迎える。

「何で来たの? 僕といると君まで不幸になっちゃうよ? 君には、お友達や彼女が出来たじゃないか。僕なんて放っておいて、勝手に幸せになってよ」

「それは違います! 俺はあなたと一緒にいて、そりゃあまあ呆れることはありましたけど、不幸だったなんて全く、これっぽっちも思いません」

 憧れていた先輩とは全然違ったけれど。

「答えはシンプルだったんです。……楽しいからサッカーをする、楽しいから先輩と話す。それでいいんですよ。友達になるのだって、複雑な理由はいらないし、好きになるのだって、明確な理由はいりません」

 立夏さんや先生、結弦や染井さんが教えてくれた。

「一緒にいて楽しい相手が、俺を不幸にする訳ないじゃないですか。俺は、これを伝えるために今日ここに来ました。自分から動いて。まあ学校をサボりましたけど」

 真葛さんが教えてくれた。

「雪兎先輩に憧れてた俺が、あの人に、暦さんに助けられた俺が、実際に先輩に出会って、話して、……この繋がりって、もう奇跡じゃないですか?」

 人と人は繋がっている。

「本当の先輩を教えて下さい」

 人と向き合うのも。

 人と繋がるのも。

 怖がらなくていい。

「……これからも、僕と、繋がっていてくれる?」

 控えめで、情けない声。

「勿論、いいですよ」

 ふにゃふにゃとした笑顔で、先輩は微笑んだ。



 俺と少しおかしな先輩との日常は、まだまだ続きそうだ。









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先輩と俺② 夢水 四季 @shiki-yumemizu

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