雪兎と吉野 ~繋がる奇跡~
避難先
僕は逃げてばかりだ。
あの子に全てを押し付けて逃げてきた。
僕と親しくなると、不幸になるから。
お父さんも。
お母さんも。
雪ちゃんも。
オジさんも。
こよみん先輩も。
皆、死んでしまった。
僕が不幸にしてしまったから。
全部、僕のせい……。
でも、それはきっと、勝手な思い込みで。
本当は怖かっただけなんだ。
人と本気で向き合うのが。
人と繋がることが。
「で、何で君はこんな所にいるのかなあ、雪兎君?」
東京・六本木にある「真葛コーポレーション」の社長室。
そこのソファの上で、冬月雪兎はくつろいでいた。
「おはやっほー、さねちー。さあ、今日も元気にお金儲けだよ♪」
この呑気さに真葛秋人は呆れかえる。
「全くもう、君って奴は。……でも概ねの予想は付いてるんだけどね。有明君との仲がこじれたんだろ? いや、君が自分から、こじらせたんだ。繋がりを自ら断ち切ったんだよね?」
「すごーいっ! さねちーはエスパーなの?」
「そんな訳ないだろ。長年、君と漫才みたいな会話を繰り広げてきたからね。考えてることくらい、分かるさ」
「じゃあ、今までの無駄話は無駄じゃなかったんだね」
「いや、けっこうな無駄話だったと思うよ。それで、これから、どうするつもりなんだい?」
「さねちーに養ってもらう」
悪気も遠慮もなく、そう答える雪兎。
「根性が腐り過ぎだよ」
「いいじゃん。社長なんだし、僕の一人くらい養ってよ」
「あのねえ、人を一人養うのに一体いくらかかると思ってるの? 困るんだよ、君みたいなプー太郎は」
「僕、ちゃんと働くから。さねちーの右腕になるから」
「微分積分も分からない奴に、僕の右腕は務まらない」
「じゃあ、さねちーの愛人になるから」
「もっと嫌だよ!」
「社長なんて愛人の一人や二人いてナンボでしょ」
「そんな常識はない!」
「じゃあ、僕の親の遺産をあげるから」
「えっ、遺産⁉ って、いくらくらい?」
プルルルルルルル。
悪い癖が出た所で電話が鳴った。
「はい、もしもし? ……え? それって……」
通話を終えた秋人は、その聞かされた内容を雪兎に伝える。自分自身も驚きながら。
「何それ……。あまりにも出来過ぎなんだけど」
「でも、それが事実だ。ちゃんと向き合ってくれ」
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