第28話 day18

 紅は目の前にある箱を覗く。とてもきれいな指輪だ。

 「少し白っぽい宝石の指輪...ダイヤモンドっぽいけど...ちょっとだけピンクに近いな...」

 そう呟くと、「アクロアイト」という宝石なのだと店員のおばあさんは教えてくれた。詳しくは知らないが、透明な状態で見つかることは滅多にないらしい。

 「青色だぁ」

 となりで目が潤んでいるシズクの箱の中には青色の宝石の指輪があった。こちらも、アクアマリンという名前のある宝石らしい。

 紅自身あまり宝石に詳しくは無いので理解不足だが、ちゃんと宝石には意味が込められているらしい。紅はちゃんと覚えていないが、隣で興味津々の様子でシズクが聞いていた。また調べるか聞くかしてみようと紅は後回しにしたのだった。

 

 「シズクっ」

 「な、何でしょうか?」

 「付けてあげようか?」

 そう言って、シズクの指輪を取り出し、右手の中指につけてあげる。

 「あれっ?」

 紅は目の前で起きたことに驚いた。

 「指輪が大きくなった?」

 そう。指輪の大きさが変わったのだ。指に通そうとすると自然に大きくなり、簡単に通るようになった。そして指を通すと勝手に小さくなり、指にぴったりはまったのだ。

 「そのの指輪はね、刻印がしてあってねぇ、勝手にはめる人の気力エネルギーを使って、大きくなったり、小さくなったりするんだよ。その気力エネルギーの込め方次第では外す条件をつけて勝手に外せないようにしたり、何かしらの機能を付けたりできるんだよ。」

 それを聞いて紅は瞬時に理解した。

 「じゃあここに、外すときの条件を付けたいな。」

 「条件を付けるときはね...」

 紅はそこで条件の付け方を聞いた...


 「ここに縛りを設ける。この指輪は、紅、又はシズク本人の意思でしか取り外すことはできない。」

 直後...特に何の変化もなく分からなかったが、店員さんたちに頼んで外そうとしてもらうと、確かに外せる様子は無かった。その縛りは人の作った縛りを改変することはできないらしい。できるにはできるが、方法としては、他人の縛りを自分の縛りで塗り替えるしかないのだとか。

 『まぁでも、そこまでする必要はないと思うし気にしなくても大丈夫だよね』

と、紅は気にしなかった。

 そこで、もう一つのことを試してみることにした。

 『指輪に能力の力を込めるんだよね...『小霧オギリ』』

 すると、紅にはシズクの指輪から少しずつ霧が出ているのが見えた。少し間をおいてシズク達も気づく。

 「なるほど...とっても便利そうですね」

 おそらく、かなり戦い方や狩りの仕方にもバリエーションが増えるのだろうと紅は考えた。本人は気づいていないが、ほんの少しだけ悪い笑みが溢れている。

 少しだけ店員さんやおばあさんと世間話をして、お店を出ることにした。一時間くらいだろうか。この世界に来て時計という物を見ていない。果たして、この世界に数字でのという概念はあるのだろうか。


 数時間。それはもはや散歩だった。地上も含めて、あちこちを歩き回り、そして歩き回る。となりには、とっても楽しそうな鼻歌交じりのシズクがいる。楽しそうだったので、ついつい気にせず一緒に歩いているのだ。


 辺りが少し暗くなった頃。

 「ご飯たべよ」とシズクが言い出したので、近場の食事屋さんに入った。

 適当に食べ物を頼もうと思ったが、肉ばかりだった。言語は能力で自動的に翻訳している。それでも分からない食べ物は分からない。例えば、「とりのから揚げ」ならば多くの人が理解できるだろう。でも、「グリフォンのから揚げ」とか言われても想像がつかないのだ。グリフォンなんて紅の知識上ではワシのことである。でも、ワシのから揚げなんて見たことも無ければ、この世界のグリフォンが、紅の知るグリフォンとは限らない。そういう意味でも、選びにくいのだ。

 「じゃぁ、ワイルドポークのステーキで...」

 ワイルドポークなんて、直訳すれば野生豚。きっと、食べられないモノじゃないと信じて頼むしかないのだ。

 そんな、絶妙な気分で注文を済ませると、シズクがとある質問をしてきた。

 「紅は、他に締約神を増やそうと思ってるの?」

 紅は少し答えに困ったが、素直に思ったことを言うことにした。

 「私は、別に増やすことも考えてないし、増やさないとも思っていないよ。そもそも締約神って将来を誓うヒトでしょ?そんなに簡単に決めれるものじゃないし、そんなに簡単に増やしたり減らしたりしたくないよ。もちろんどうなるかは分かんないけど、誰が増えても、シズクが近くにいてくれるなら、ちゃんとシズクのことも見てあげたいなって思うよ。どうしてそんなことを聞きたくなったのかは知らないけど、答えは、「増えると思う」けど、その時まで二人きりだからね。」

 それを聞いたシズクは満面の笑みで、届いたステーキを食べ始めた。

 「ちなみに、シズクは増やしたい?それとも増やしたくない?」

と、一つ気になったことを聞いたら、「私は頑張って、紅様のお役に立てるように頑張ります。」と元気に応えてくれた。


 そしてそのあと、ゆっくりと来賓館へと帰る。

 この国での、今回の滞在での、最後の夜だ。

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転生後、毎日が私を強くする リオ-クレン-クレアハート @kuren-012

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