新人冒険者

 カイルは新しく仲間に加わった魔獣のレッドアイと、天使のリリアーヌと共に空を飛んで王都を目指した。レッドアイは高い場所が怖いらしく、カイルが抱っこをして飛んだ。


 王都の冒険者協会に到着すると、カイルは冒険者登録をして冒険者になった。カイルは登録書類を提出した受付の女性にせっついて言った。


「俺は命の危険におびやかされている依頼人の仕事を受けたいんだ」

「ちょ、ちょっと待って。ボウヤはまだ冒険者になりたてのレベル1の冒険者なのよ。まずは簡単な依頼をこなしてレベルをあげてから、難しい依頼に挑戦したら?」


 受付の女性の頭ごなしの言葉に、カイルは不機嫌になって顔をしかめた。となりに立っているリリアーヌがため息をつきながら言った。


「カイル。受付の人の言う事を聞きなさいよ。いくら意気込んでも貴方はまだ冒険者初心者なんだから」

「・・・、わかった」


 カイルはリリアーヌに返事をしたのだが、受付の女性はカイルが納得してくれたのだと思い、ホッとため息をついた。


 受付の女性は、カイルにある提案をした。


「ボウヤ。大きな依頼を受けたいなら、まずは集団の依頼にすれば?」


 集団の依頼とは、冒険者が個人ではなく団体で受けるのだ。依頼料は少なくなるが、その分危険度は下がる。


 受付の女性が進めてくれたのは、ある男爵の依頼だった。男爵は殺人予告を受け取って、腕の立つ用心棒を片っ端から集めているというのだ。


 カイルはこの依頼を受ける事にした。だがこの依頼は、男爵に会い、用心棒として適正があるか判断され合格しなければならないのだ。


 カイルはリリアーヌとレッドアイと共に依頼人の屋敷に向かった。



 依頼人はロシアーヌ男爵という、でっぷりと太った男だった。ロシアーヌ男爵は、カイルとレッドアイを見てため息をついて言った。


「おいこぞう、本当にお前がわしを守れるというのか?」

「ああ、必ず守ってやる。だからこの依頼を受けさせろ」


 カイルの態度に、男爵は顔をしかめたが、執事にカイルを案内させた。用心棒の適正があるか判断するためだ。


 カイルは執事について、屋敷の中庭に案内された。そこは広い平地になっていて、申し訳程度に花壇があった。ここは用心棒たちが自主練習を行う場なのだ。


 執事は鎧を着た戦士に声をかけると、カイルを紹介して言った。


「おい、用心棒希望者だ。審査してくれ」

「こんなガキがなれるわけないだろう」


 屈強な戦士はげんなりした顔でカイルを見た。戦士は仕方なく、中庭の真ん中で剣を抜いた。カイルも抱いていたレッドアイを花壇のへりにちょこんとおろして、戦士の前に立ち、剣を抜いた。


 カイルが剣を抜いたと同時に、戦士がオオッと叫び声をあげて斬りかかってきた。カイルは戦士の一刀を、剣で受け止め軽く流すと、返す刀で戦士の胴に斬り込んだ。戦士は素早く身体をひねり、カイルの剣を受けた。カイルは戦士から離れると、手に火魔法を作り出した。


 戦士は驚いた顔をして言った。


「お前、魔法を使えるのか?」

「ああ。魔法の方が専門だ」


 戦士は笑って、カイルに剣を打ち込んで来た。カイルは火魔法を戦士に向けて投げた。驚いた事に、戦士はカイルの火魔法を剣で斬って無効化してしまった。


 戦士はなおもカイルに剣を打ち込んでくる。カイルは戦士の剣を受けながら、笑って言った。


「どうやら手加減しなくてもいいようだな?」

「ああ、本気で来いよ」


 戦士の余裕の笑みに、カイルも笑った。カイルは小さく呪文を呟いた。すると、戦士の周りに沢山の炎の魔法が出現した。戦士はハッとした顔になり、カイルから距離をとった。


 炎の魔法は次々と戦士に襲いかかる。戦士が炎を斬るたびに、カイルは炎の魔法を増やした。ついに炎はいっせいに戦士に向かって行く。戦士はたまらず叫んだ。


「まいった!」


 戦士とカイルの戦いを見ていた執事が、勝負ありと叫んだ。カイルは用心棒になれたのだ。

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天使に愛された元殺し屋の話 城間盛平 @morihei

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