レッドアイ

 カイルは巨大オオカミを連れて森の中に入った。平地を見つけると、地面に手をついて、土植物魔法を発動した。


 地面からピョコピョコと植物の芽が飛び出した。芽はどんどん成長し、やがて花を咲かせた。カイルは頃合いを見て土から掘り出した。植物の根には沢山のジャガイモが育っていた。


 カイルは見ていたのだ。巨大オオカミがジャガイモ畑を荒らしていたのを。おそらく巨大オオカミはジャガイモが好きなのだ。


 巨大オオカミの鼻づらにジャガイモを近づけると、口輪を外してやる。巨大オオカミはクンクンとジャガイモのにおいを嗅いだ。


 カイルはゆっくりとジャガイモを巨大オオカミの前に置いてやる。オオカミはジャガイモの一つにかぶりついた。ジャガイモの味が気に入ったらしい、オオカミはすごい勢いでジャガイモを食べた。


 カイルは土植物魔法で作ったジャガイモをどんどん掘り上げて、オオカミの前に置いてやる。カイルがジャガイモを掘りつくすと、ようやくオオカミの腹もくちたようだ。


 巨大オオカミはカイルに気を許してくれたらしく、クゥンと鳴いた。カイルの横にいたリリアーヌがため息をついて言った。


「どうやら魔獣はカイルに懐いちゃったみたいね?」

「ああ、俺なら土植物魔法でコイツの飯を出してやれる。旅の最中で魔界への出入り口が見つかれば魔界に帰してやれる。それまで俺が面倒をみる」

「カイル。名前、つけてあげたら?」

「おお、そうだな。目が赤いからレッドアイでどうだ?」

「・・・。見たままね。カイル、センスないのね」


 リリアーヌには不評だが、巨大オオカミは嬉しそうだ。カイルは巨大オオカミ改めレッドアイに言った。


「俺はカイル。レッドアイ、これからよろしくな?」

「ガウッ」


 まるでレッドアイが、返事をしたようだった。突然カイルとレッドアイを光が包んだ。カイルが驚いていると、リリアーヌが笑顔で言った。


「真の名の契約が成立したのよ」

「真の名の契約?」

「ええ、レッドアイがカイルの事を好きになったから契約したの。これからカイルとレッドアイは意思の疎通ができるわ」


 リリアーヌの言っている意味がわからず、カイルが首をかしげていると、突然誰かが喋った。かたことのつたない話し方だった。


『オレ、カイルスキ。タベモノクレタ、ヤサシイ』


 カイルは驚いてリリアーヌを見た。リリアーヌは首を振って答えた。


「話したのはレッドアイよ?」


 カイルは驚いてリリアーヌに向けていた視線を巨大オオカミに向けた。レッドアイは大きな舌を出して、ハッハと息を吐きながら言葉を続けた。


『レッドアイ。オレノナマエ、キニイッタ』

「本当にレッドアイがしゃべっているのか?」

『ソウダ』

「何故俺にオオカミの言葉がわかるんだ?」

『オレ、カイルマモル。ナニカコマッタコトオキタラオレニイエ』


 カイルが目を白黒させているので、リリアーヌが説明した。


「カイル。魔獣のような高い魔力を持った生き物はね、気に入った相手と真の名の契約を結ぶの。契約した相手を契約者にして、守り助けてくれるのよ」

「へぇ、それは心強いな。だがレッドアイは大きすぎるから、王都に着いたらどこかに隠れててもらわないとな」


 カイルは苦笑して、レッドアイの頬を撫でた。レッドアイは嬉しそうにカイルの手にすり寄って言った。


『オオキサ、オレオオキイカ?コレナラドウダ?』


 レッドアイはそう言うと、みるみる縮み、小さな仔犬の姿になった。レッドアイはカイルの足に前足をかけている。カイルは驚いた顔でためらいがちに仔犬を抱き上げた。


 レッドアイはもふもふでとても温かかった。カイルは前世でも現世でも動物と関わった事がなかった。犬は標的の人間の家の警護している番犬しか知らなかった。動物と触れ合う事は、こうも心が暖かくなるものだったのか。


 リリアーヌはカイルのとなりに立ち、レッドアイの頭を優しく撫でた。レッドアイはピクリと耳を立たせてカイルに言った。


『カイル、ナニカイルゾ?イマナニカガオレニサワッタ』

「ああ、俺の側には守護天使がついてくれているんだ」

『テンシ?カイルニトッテミカタナンダナ。オレ、コノケハイオボエタ』


 リリアーヌはクスクス笑って言った。


「レッドアイは感が鋭いから、私の事もわかるのね」


 カイルはレッドアイがリリアーヌを認識してくれる事が嬉しかった。




 

 

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