人助け
カイルの住んでいる村は、山奥にある小さな村だった。住人たちは皆知り合いで、助けあって暮らしていた。
カイルは川近くの大きな岩に腰かけながらリリアーヌと話しをしていた。
「つまり、リリアーヌには命の危険が迫っている人間が分かるっていうんだな?」
「ええ、そうよ。だからカイルは私がこの人って言ったら、助ければいいのよ」
美しい天使はカイルの横で微笑んで言った。カイルは顔をしかめて答えた。
「何かズルしている気がする」
「そんな事ないわ。人の命を助ける機会なんて、一生に一度あるかないかよ?そんなゆうちょうな事を言ってたら、カイルはすぐにおじいちゃんになっちゃうわ」
「そうか。じゃあ頼む」
「ええ。私に任せなさい」
美しい天使は得意げにこぶしで胸を叩いた。
何故カイルたちがこの場で待機しているかというと、今からここで命の危険にさらされる人物が現れるというのだ。
カイルの目の前に広がる川は、昨日の大雨で水量が増え、ゴウゴウと音をたてて流れていた。村の男たちは総出で川に集まっている。豪雨により壊れてしまった橋を作りなおす相談のためだ。
カイルの父親もその場にいた。カイルは視線だけを父親に向けた。カイルの前世の記憶が戻ってからというもの、どうもギクシャクとした態度を取ってしまっている。カイルが恥ずかしくて抱っこを嫌がると、父親は悲しそうに微笑むのだ。父親の悲しそうな顔を見るたびに、カイルの胸はズキリと痛んだ。
カイルは父親から川の周りに視線を移した。川の側では、男衆に着いて来た家族もいた。その中に、小さな子供もいた。
名前はトビー、五歳のヤンチャ盛りの男の子だ。トビーは好奇心旺盛でとにかくジッとしていない。トビーは増水した川が面白いらしく、近づきたくてしょうがないらしい。母親はトビーの小さな手を引っ張って、川から引き離そうとしている。
その時、魚がピョンと川から飛び出した。おしゃかな、トビーは嬉しそうに叫んだ。トビーの小さな手が、つないだ母親の手から、スポンと抜けた。小さなトビーの身体は、そのままバチャンッと川の中に落ちてしまった。母親はかなぎり声の悲鳴を上げた。
カイルは座っていた岩からスクッと立ち上がり、走り出した。小さなトビーは増水した川にあっという間に流されてしまった。カイルは川に飛び込むと、もう然と泳ごうとした。
だが全く泳げなかった。カイルの身体はトビーの後を追いながら流されて行った。そこでカイルは気がついた。自分は大人ではなかった、十歳の小さな子供だったのだ。これではトビーを助けるどころか自分も溺れてしまう。
カイルは呼吸もままならない苦しいさなかに、ある事を思い出した。自分には魔法があった。カイルは自身の身体に水魔法をまとった。先ほどまで呼吸もままならなかったのに、まるで魚のように泳ぐ事ができた。
やっとの事でトビーの身体をつかみ、風魔法でトビーを陸に押し上げた。その後、自分も陸にあがろうとした途端、流木がカイルに当たった。カイルは身にまとっていた水魔法が解けてしまい、濁流の中に飲み込まれてしまった。
薄れゆく意識の中、せっかく新しく生まれ変わったというのに、もう死んでしまうのかと残念に思った。そして、両親は悲しむだろうと考えた。あの善良な両親を悲しませる事がとても辛かった。
そして、リリアーヌ。カイルを擁護してチャンスを与えてくれた美しい天使。彼女に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
その途端、カイルは水の中から引っ張り上げられた。カイルを引き上げたのは、顔をこわばらせたトビーの父親だった。
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