シリルの両親
カイルは仕方なくリリアーヌを連れて家に帰る事にした。両親に天使のリリアーヌをどう説明しようかと一生懸命考えたが、何も思い浮かばず自宅に着いてしまった。
カイルが自宅のドアを叩くと、母親が出迎えてくれた。母親はカイルを優しく抱きしめて、頬にキスをしてくれた。カイルの前世は、幼い頃殺し屋に拾われて育てられたので、抱きしめて頬にキスされたのは初めてだった。
頬が熱くなり、胸がドキドキしてしまった。シリルの記憶もあるので、何度も母親が頬やおでこにキスをしてくれた記憶はあるのだが、実際に体感するのは初めての経験だったのだ。母親はカイルに優しく言った。
「シリル。今日は楽しかった?」
「う、うん」
「それは良かったね。手を洗っていらっしゃい。ふかし芋があるよ?」
カイルはリリアーヌの事を紹介しようとしたのに、母親はリリアーヌの事は無視して、くるりと背を向けてしまった。カイルが驚いてぼんやりしていると、リリアーヌが言った。
「私の姿はカイルにしか見えないの。声もカイルにしか聞こえないわ」
リリアーヌの言葉にカイルはホッとため息をついた。カイルは手を洗い、母親が出してくれたふかし芋を食べた。
シリルの家はあまり裕福ではなかった。母親は畑を耕し、父親は荷運びの仕事をしている。
夕方になり父親が帰って来た。いつものシリルならば、父親を出迎えて抱っこをせがむのだ。だがカイルの記憶がよみがえり、大人の自分が父親に抱っこをせがむのが恥ずかしくなってしまった。
カイルはどうしたらいいかわからずモジモジしていると、父親が近づいてカイルを抱き上げて言った。
「どうしたんだ?ワンパクこぞう。またイタズラして母さんに怒られたのか?」
「!。し、してない。そんな事!」
「何だ?あやしいなぁ」
父親はさもおかしそうにカイルの頬に頬ずりをした。ひげがチクチクとささって痛かった。だがカイルの胸の奥はポカポカと暖かかった。
台所から母親がやってきて父親に言った。
「この子ったら友達と遊びに行ってから、何か変なのよ?父さんに甘えている事をからかわれたのかもね?」
母親の言葉に父親は笑った。カイルは冷や汗をかいた。いつものシリルでいようと思うのに、どうやら両親はシリルの中にカイルがいる事に違和感を覚えているようだ。
その日の夕食は、ふかしたジャガイモに、薄いスープだった。カイルはシリルらしくふるまおうとして、スープをがぶ飲みしたら、激しくむせてしまった。
父親は笑いながらカイルの背中を叩いてくれた。とてもあたたかい夕食だった。カイルは両親と食べる食事はとても美味しいと思った。
夜になり、ベッドに入ると、母親がカイルのおでこにキスをしてくれた。カイルがあたたかい気持ちで目を閉じると、クスクスと女の笑い声がした。リリアーヌだ。カイルが声をかけた。
「眠る時までいるのか?」
「当然じゃない。私は貴方の監視者だもの」
カイルのベッドの横に、美しい天使が現れて答えた。カイルは顔をしかめて言った。
「リリアーヌは飯食わなくていいのか?」
「天使だもの、ご飯は食べないわ」
「リリアーヌは寝ないのか?」
「天使だもの、寝ないわ。カイル、もう寝なさい?」
「・・・。そんなに見られたら寝れない」
リリアーヌはハァッとため息をついてから言った。
「カイルは繊細さんね。お休みなさい」
それだけ言うと、リリアーヌはパッと姿を消した。カイルはようやく目を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます