天界裁判

 カイルが目を覚ますと、そこはとても明るい場所だった。カイルは一人で台の上に立っていた。カイルの前には木の柵が設けられていた。


 カイルがふと手元を見ると、手には手錠がはめてあった。はて、自分は死んだのではなかったか。もしかすると生きながらえていて、捕らえられたのだろうか。


 カイルは思考が追いつかずぼんやりしていると、光り輝く天上から声がした。おごそかな声だった。


「これより人間カイルの裁判を行う。カイルは天国に行くべきか、はたまた地獄に落とされるべきか」


 おごそかな声の後に、別な声が口々に言う。地獄だ。カイルは沢山の命を奪った極悪人だ、地獄に落とせ。


 カイルはこの声がどこから聞こえてくるのかと思い顔を上げた。すると、カイルの頭上には沢山の人間が浮いていた。風魔法でも使っているのだろうか。カイルが浮かんでいる人間を観察してある事に気づいた。


 空中に浮いている人物たちは背中に大きな白い翼を背負っているのだ。この者たちは人間ではない、天使なのだ。


 やはりカイルは死んでしまい、これから天国に行くのか地獄に行くのか決まるようだ。空中に浮いている天使たちが口々にカイルは地獄行きだと言う。カイルもそう思う。カイルは沢山の人間を殺したのだ。地獄に落とされて当然だと思った。だが異


 その声はカイルの横から聞こえた。カイルが声の方に振り向くと、いつのまにか女が立っていた。とても美しい女だった。真っ白な肌、澄んだ青い瞳、プラチナブロンドの美しい髪、そして背中には純白の翼が生えていた。彼女も天使なのだ。美しい女は切々と訴えた。


「この者、カイルは幼い頃、殺し屋に引き取られました。まだ善悪を教わる前に魔法と殺しの技術を施されたのです。カイルが養父である殺し屋に逆らうという事は、自身の死を意味するのです。カイルの行った事は悪ではありますが、仕方がなかった事ではないでしょうか。どうかカイルに罪を償うチャンスをいただけないでしょうか!」


 どうやら、この美しい天使はカイルの減刑を願い出ているようだ。カイルは申し訳なくなって、美しい天使に声をかけた。


「なぁ、あんた。俺なんかのために弁護してくれるのはありがたいんだがな。俺は地獄に落ちたってどうでもいいんだ。ただ、ゆっくりしたいだけなんだ」


 カイルの言葉に、美しい天使は驚いた顔になり言った。


「地獄に行く事が怖くないの?」

「ああ、生きてた時も地獄のようだった。だからどっちの地獄でも違いはないさ」


 美しい天使は悲しそうな表情をした。その表情を見て、カイルはある事を思い出した。自分がかばったあの少女は無事に逃げられただろうか。カイルは美しい天使に聞いた。


「なぁ、あんた。俺がかばった娘は無事か?!」

「え?!ええ、無事よ。貴方がかばって助けてくれたから」

「そうか、よかった。なら思い残す事はもうない。俺を地獄に落としてくれ」


 あの少女が無事だった。カイルは嬉しくなった。カイルは沢山の人の命を奪ったが、最後に一人の命を救う事ができたのだ。


 天上からおごそかな声が響いた。


「これより判決を下す。人間カイルよ、お前は前世で百人の人間を殺めた。よって、現世で百人の人間の命を助けよ。さすれば前世の業は消えるであろう」


 おごそかな声がそう言い終えた途端、目の前が眩しく輝き出した。カイルはたまらず目を強くつむった。

 

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