第8話 いつかまたあおうね

 「美穂ちゃん。おきたの?」


おかあさんの声がした。

クゥタは美穂の手をやわらかい手でつつんだ。


『美穂ちゃん。お別れだよ。

 泣かないで、泣かなくていいんだ。

 いつかまたぼくとあえるんだから』


「あえるの?」


『うん。美穂ちゃんがみつけてね。

 これからであうたくさんの人のなかから、 

 美穂ちゃんがぼくをみつけるんだよ。

 このすがたをさがしてもだめ。

 すがたかたちじゃないんだ。わかるね。

 いつかまたあおうね。きっとだよ』


美穂はクゥタの瞳をじっとみつめた。


    ◇◇◇◇


 「美穂ちゃん、おきているの?」


おかあさんの声に美穂はふりかえった。


「いま、いく」とこたえて、美穂はおそるおそるクゥタのほうへ顔をもどした。

クゥタはいなかった…

あとでさがそう。きっと前みたいにベットの下にいるんだから。

美穂は涙をふいた。


 ドアをあけると、おかあさん、悦子先生、そして俊樹くんと久美ちゃんがいた。

俊樹くんがちいさな声でそっと言った。


「美穂ちゃん、ごめんね」


美穂はふいたはずの涙がこぼれるのを感じながら、わらって言った。


「幼稚園のおにわにねこがいるの、知ってる?

 ぷっくりしていて、すっごくかわいいんだよ」


「うん、みたよ。かわいいよね」


俊樹くんのうしろにかくれるように立っていた久美ちゃんがこたえた。

久美ちゃんはやっぱり今にも泣きだしそうだったけど、ほっぺには

くっきりとえくぼがうかんでいた。【完】

 






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きっとまた あえるよ みその ちい @omiso-no-chii

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