第8話 リベンジ


 翌朝、テミスは朝食の前にこっそり寮内を出た。森をしばらく歩くと岩山の下の採掘場跡へと着いた。今日の授業で探索する予定のダンジョン。バグ発生前に仲間3人を吸血鬼に殺された場所だ。


「さてと、行きますか」


 軽く身体を屈伸させてテミスは洞内へと入った。中は暗く壁にあるランプに火は燈されていない。テミスは魔法を使い野球ボールくらいの光球を宙に浮かせる。魔物が現われる度、テミスは剣で瞬殺させた。まるで包丁で野菜を切り刻むかのようだ。歩みは緩まることなく廃れた祭壇へ辿り着いた。教会祭壇の上には英国紳士のようなスーツ姿の男が座っていた。


「おや? あなたは?」


「私はテミス」


「まだダンジョン探索の時間ではありませんが?」


「やっぱ知ってたんだ」


「学校の行事は筒抜けですから。それで? わたくしに何か用ですか?」


「うん。リベンジ」


「??」


 テミスは剣を構える。すると、英国紳士は机の上から飛び上がり対峙する。


「あなた、正気ですか?」


「行くよ!」


 テミスは地面を蹴り、英国紳士に一振りした。金属の鈍い音が洞内に響き鍔迫り合いになる。英国紳士の額から脂汗が滲む。テミスは剣を下げ再び突撃し疾風の如く剣を振る。英国紳士は四方八方から迫る剣をなんとか防ぐのが精一杯だった。


「あなた一体何者ですッ!?」


「私はただの田舎者」


(ステータス鑑定!)


 テミスは英国紳士のステータスを鑑定した。



 ブライネス

 【レベル】80

 【体力】8000

 【攻撃力】110

 【防御力】80

 【素早さ】100


 取得スキル 【超音波スキル】【魔力感知スキル】

 魔法属性 闇属性



「なーんだ、こんなもんだったのか」


 ブライネスの能力を見たテミスはため息を吐いた。するとブライネスの顔が怒気に変わり、こめかみから血管が浮き出てきた。


「このわたくしがこんなもん!? 私は魔王直属の部下ブライネスと承知の上ですか!?」


「うん知ってる、盲目の吸血鬼でしょ? でも直属だろうが魔王だろうが、私の敵じゃないもんはやっぱり敵じゃないよ」


「なッ!? 魔王様まで愚弄するなッ!」


 ブライネスが剣を乱撃すると、テミスは剣をおさめて上半身だけでひょいひょい避ける。


「くそッ! 一撃も当たらないだと!? それなら―――」


 ブライネスはコウモリのような羽を広げ上昇した。天井近くまでいくと両手をかざし魔法を唱えた。


「異界の扉よ、開け! ハーデス!」


 ブライネスの前におどろおどろしい重厚な扉が現われ門が開かれた。すると、大量の黒いドクロが溢れるように出てきて、テミスに向っていく。ドクロたちは唸り声を出しながらテミスを掴もうとする。テミスは剣を振り、ドクロが1体砕け2体砕けバラバラになっていく。だが量が多すぎスピードが追いつかなくなってきた。ブライネスはその姿を見て嘲笑う。


「あーはッはッはッは! やはり凡庸! 速さだけでは追いつかないでしょう!?」


「あーもうめんどくさいなー」


 テミスは左手を冥界の扉に向けた。


「テラフレイム」


 テミスの手から洞内を覆うほどの猛炎が噴出した。ドクロたちは一瞬で炭になり冥界の扉は消失した。ブライネスは唖然としてテミスを見る。


「私の闇魔法がかき消されただと……」


「それの弱点知ってる? 闇は火と光に弱いんだよね~」


「貴様、火属性か!? くそうッ、相性が悪い!」


「あ~違う違う」


 テミスは地面に両手を置いた。


「アースクエイク」


 テミスが魔法を唱えると地面が揺れ、洞内の岩石が落ちてきた。あまりに地面が揺れるためダンジョンが崩れてくる。


「やばいッ! やり過ぎた!」


 テミスは落ちてくる岩石を拳で砕きながら出口へと走って行った。ブライネスは頭を抱えたまま動かずそのまま岩石に押しつぶされた。そしてダンジョンは崩壊した。


「いや~絶景絶景!」


 岩山が崩れてオレンジ色の朝陽が見えた。テミスは崩れた岩石をジーっと見る。


 ボコッ!


 すると岩石が空へ飛ばされブライネスが粉塵まみれで出てきた。


「もう許しません! 火属性だけではなく土属性まで! あなたは脅威です!」


「やっぱ生きてるよね~」


 ブライネスは両手を空に掲げた。そして闇属性最強の魔法を唱える。


「ヘルデビル!」


 雲一つない晴天から暗雲が立ち込み、太陽が隠れ空が暗くなる。


「これであなたは終わりです! この魔法はわたくしのとっておき! なにせ使ったら私にも制御できませんから!」


 黒い雲が歪み空がねじまがった。渦の中心から角を生やした魔人が降りてくる。体長20メートルほどの巨体で鬼のような形相をしている。魔人は巨大な斧を持ち、それを振り上げテミスを斬りつけた。しかし―――。


 パシッ!


「思ったよりも軽いかも」


 テミスは魔人の斧を片手で受け止めた。


「な、な、なんだと!?」


 魔人は斧を持ち上げようとしている。だがテミスが斧を掴んで離さないため微動だにしなかった。テミスは斧を握りしめた。すると斧は刃先から割れてボロボロ崩れていった。武器がなくなり、魔人はテミスに殴りかかった。テミスは跳躍しひょいひょいと魔人の腕を登っていく。魔人の肩までくると岩のような大きい顔に向ってテミスは手を振った。


「バイバイ。黒炎!」


 魔人の顔は黒い炎に包まれた。そして地面に倒れそのまま消えた。魔人がいなくなると空が明るくなり、再び太陽が現われた。テミスは盲目の吸血鬼に向って言う。


「勇者アテナは殺させない」


「なぜあなたがそれを!?」


 テミスは素早く剣を抜き、ブライネスの背中に高速の突きをする。ブライネスは立ったまま口から大量の血を吐いた。テミスは剣を抜き跳躍する。そして頭上からブライネスを真っ二つに切り裂いた。ブライネスは薪のように二つに割れた。最後にテミスは吸血鬼をこま切れにし心臓だけ取り除く。トクントクンと微かに筋肉運動している心臓。テミスはそれを見ながら重々しく口を開いた。


「これで3回。チャラだよ」


 テミスは吸血鬼の心臓を空へ放り投げた。そして曲芸のように一刺しすると、吸血鬼の心臓は太陽の光で赤く燃え上がった。ゆっくり静かに炎が揺らぎ黒い塊になっていく。炎が止むとボロボロと剣先から崩れていった。


『ピコン。【超音波スキル】と【魔力感知スキル】を取得しました』


「さてと、帰りますか」


 テミスはスキル2つを取得し吸血鬼の死体を魔法で焼き払った。ダンジョンの祠は崩れ、地面には焼き焦げた跡が残る。テミスは後ろを振り向かず黙ったまま寮内へ戻っていった。


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