第7話 女神降臨


(ここは……魔法学校の寮? 私1人だけ帰ってきた?)


 テミスはダンジョンでリンゴを拾い10年ぶりの【バグ認識スキル】を発動させた。そしていつの間にか、魔法学校寮内の自分の部屋に移送していた。


 トントン。


「はい?」


(誰? 寮母さん?)


 ドアを叩く音が聞こえ、テミスは泣き面のままドアを開けた。


「テミス、明日はダンジョン探索の授業のようです。準備は出来ましたか」


「アテナっ!? なんでここに!?」


「なんなんですか!? 急に!」


 テミスは突然アテナに抱きついた。さっきダンジョンで吸血鬼に殺されたはずの勇者アテナ。そのアテナが今、テミスの目の前にいる。アテナは首を傾げながら泣きつくテミスを見ていた。


「よがっだよ~」


「テミス、鼻水が!?」


 アテナのパジャマにテミスの鼻水がべっとりついた。アテナが顔を押しやっても、テミスは再び抱きついた。アテナはわんわん泣くテミスを見て優しくほほ笑んだ。


「悪夢でも見ていたのですか? 大丈夫。私がいますから」


「うんうん、アテナがいてよかったよ~」


「よしよし」


 アテナはテミスの頭を撫でた。その後、2人はベッドに座りしばらく会話した。はじめテミスの訳が分からない話を聞いていたが、全て夢の話だとアテナは解釈していた。そして明日の授業の持ち物を2人でチェックした。テミスは必要な道具、回復薬と毒消し草を鞄に入れ忘れていた。すぐにアテナは自分の部屋から予備を持ってきてテミスの鞄の中にいれた。テミスはようやく落ち着き、アテナはテミスの部屋を後にした。テミスはベッドの上で安堵する。


(アテナが生きてた……よかった)


《あっ、まさよし~? 元気してた~》


(えッ!? まさか堕落女神!?)


《そうそう、わたしわたし。ようやく娑婆に出られたのよ!》


(娑婆って、そこ天界でしょ!?)


《まあそうなんだけどね。私にとっては俗界を覗くことが生きがいだから》


(そんなことより、どうして10年間も音信不通だったのよ?)


《あれ? まさよし喋り方変わってない?》


(そりゃ10年も女の子やってれば自然と、ね?)


《まあそんなもんか? じゃあまさよしは不自然ね。今のあなたはテミスでいい?》


(それでお願い)


 テミスの頭の中で急に女神の声が聞こえた。テミスは10年間女神と音信不通だった理由を訊いた。


《……ということで、今日からあなたの【バグ認識スキル】と【女神とのホットライン】は復旧しました》


(天界もいろいろ大変だな~。そうそう、さっそく聞きたいんだけど)


《なになに? 何でも聞いて? 長年無言だったわたしは、今、会話に餓えているから》


(さっきのバグなんだけど)


《あ~さっきのね。あれは【勇者アテナが死んではいけなかった】からよ》


(死んではいけない? どういうこと?)


《この世界は勇者アテナが魔王を倒す。これが必然なの》


(つまり、私があそこで吸血鬼を倒せなかったから、バグが発生した?)


《そ。バグ認識スキルは、この世界の均衡が崩れた時に発生する歪みを見つけるスキル。本来はその歪みは女神が調整するんだけど……あー、やっぱさっきの引継ぎの時か~》


(引継ぎ!? 他にも女神がいるの?)


《私がいない間、巨乳馬鹿乳女が均衡を保ってたんだけど。さっき引継ぎの時に口喧嘩しちゃって、どっちも下界を観てなかったからさ~あはは》


(そうなの?? でもあれは、私が油断して【ハーミット】を発動させたから)


《あ~違う違う。そういう状況に追い込まれるのよ。私たち女神が監視していれば、あそこで強敵とか出して油断させない状況にしてた。でも、監視していなければ油断させてハーミットを発動させ、世界の均衡を悪い方へと傾けさせる》


(なんか悪の組織と戦ってるみたいだな~)


《その通りよ。私たちが見てない所であいつらは悪さするんだから》


(そっか。でもそうだったのか)


《あんたに責任はないわ。それでねテミス。あなたに新たな任務が下されたわ》


(新たな任務? 何で私に?)


《そりゃそうでしょ? だって本来、あなたが勇者になってこの世界を救うはずだったんだから》


(じゃあ私の代わりにアテナが?)


《そう。だからあなたは【勇者アテナが魔王を倒す補助役】という役割が与えられたの》


(アテナの補助か。それならよろこんで引き受ける。勇者よりずっと気が楽だ)


《言うほど簡単じゃないわよ? あなたの場合、普通のパーティーメンバーってだけじゃないから》


(どういうこと?)


《勇者の補助と世界の均衡を保つ。この二つをやるの》


(待って。さっき世界の均衡を保つのは、女神の仕事って言ってたよね?)


《言った》


(それを私にやれと?)


《そ》


(そんな無茶なッ!?)


《それが出来るのよ》


(どうして!?)


《バグプレーヤーだからよ》


(バグプレーヤー?? バグ認識スキルじゃなくて?)


《バグ認識スキルは世界の均衡の歪み(バグ)を見つけるスキル。バグプレーヤーはそれを修復する役割》


(修復ってどうやって?)


《力で行使》


(そんな力ないよ??)


《あ~そっか。まだあなた自身の強さって確認したことないんだっけ?》


(ステータスのこと?? それならジーちゃんに力を隠せって言われたけど)


《なら分かるでしょ? あなた本来の強さ》


(いいや。自分の強さって、全属性の魔法を全部使えるようになったくらいでしょ?)


《そんなの序の口よ。ちょっと待ってて、今、賦与するから》


(賦与??)


『ピコン。【ステータス鑑定スキル】を取得しました』


《これであなたの能力値が見れるわ》


(分かった、ステータス鑑定!)


 テミス

 【レベル】500

 【体力】62500

 【攻撃力】750

 【防御力】625

 【素早さ】475


 取得スキル 【バグ認識スキル】【ステータス鑑定スキル】

 魔法属性 全属性(火水雷風土光闇)

 魔法習得 全魔法(火水雷風土光闇)

 武器装備 全種(剣、大剣、刀、ダガー、槍、弓、杖、その他)

 

 スキルポイント ∞


(ご、500!? レベルって普通99が上限じゃないの!?)


《普通はね。でもあなたはバグプレーヤー。おじいさんも言ってたでしょ? 教えれば教えるだけ強くなったって》


(それってそういう意味!? てっきり教え方がいいのかと)


《どんだけ謙虚なのよ。普通人間は限界値が見えるものよ》


(それじゃあ、このスキルポイントって? それに∞??)


《これはスキルを取得する時に必要なポイント。モンスターを倒したり修行したりすると自動で入って来るポイント。まあ経験値みたいなものよ。それと∞は無限。つまりどんなスキルでも、何もしないで取得可能ってこと》


(スゴッ! ちなみにさっきの【ステータス鑑定スキル】はポイントいくつ?)


《あれは50くらいね。【バグ認識スキル】は100。人間のスキルポイントの限界値は99まで。つまりスキルポイント100の【バグ認識スキル】は普通の人間は取得できない神スキルってこと》


(スキルはいつ得られるの? さっきみたいに賦与されて?)


《賦与はめったにないかな~。奇跡みたいなものだから。大抵はボスを倒した時。あとは生れた時に女神から賦与されるケース、あと長年の修行の末とか》


(これも上限が?)


《普通は1個か2個》


(私は?)


《好きなだけ》


(チートじゃん!)


《だから、女神の仕事があなたにも出来るのよ》


(じゃあ、あなたは何をやるの?)


《私? もちろん私の使命は【勇者を育てること】。つまりこれからは、私とテミス2人で【勇者アテナを育てていく】。分かった?》


(なるほど~、堕落女神じゃ荷が重すぎるってことか~)


《違うわよ! じゃあもういい? 切るね? 早く10年間のトップアイドルの軌跡を見なきゃだから》


(……アイドルって、ジャニオタかよ)


 10年ぶりの女神との通信が切れ、テミスはベッドに再び寝ころんだ。天井を見あげると、消灯の時刻になり電気が急に消える。月明りが窓から差し込みテミスは布団にもぐりこんだ。


(本当によかった。アテナは生きてた)


 そしてテミスはそのまま朝まで熟睡した。

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