第2話 バグを見つける能力


 女神が開いたカオスゲートの中はウネウネと七色の虹が混色したような気持ち悪い空間だった。東条正義はその空間を浮遊していた。


(一体なんなんだ? 死んだと思ったら次の人生は勇者? それを断ったら、こんなとこへ放り込まれた……全くツイてない)


 正義はしばらく怒りと憂鬱に駆られたが、考えるだけ無駄だと思い、この場で何か出来ることはないか探してみることにした。


(とりあえず、泳いでみるか)


 手足を動かしてみると、水中を泳ぐような感覚があった。正義は手足をバタつかせて、しばらく縦横無尽に空間を移動した。しかし、進むということ以外まるでなにも出来なかった。


(移動は確保できた。だが、そもそも目的地がない。こりゃ動くだけ体力が消耗するだけだな。そういえば、腹は……減ってないか……何か変な感覚だ)


 この空間では時間という概念がない。というより、時を遡ったり加速したり、空間と同様に時間もねじ曲がっていた。そのため、空腹はなく飢え死にすることはない不思議な空間。正義は次の行動へ移った。


(そうだ! これだけグニャグニャになってるんだ。どこか規則性を探せば出口に繋がるかもしれない。間違い探しみたいに!)


 正義は昔流行った眼鏡の人を探す絵本を思い出した。そして目を凝らして、グネグネと捻じ曲がる空間を注意深く観察した。


(赤、橙、黄色……紫、赤、青……ダメか。色がランダムに入れ替わるだけで、何の規則性もない)


 しばらく七色のグネグネを観察していたが、正義は何の手がかりもつかめず、匙を投げた。


(……全くここから出られる気がしない)


『ピコン。【バグ認識スキル】を取得しました』


(なんだ今のは? 声が聞こえた? バグ認識?)


 正義の頭の中で女性アナウンサーのような声が聞こえた。そして目の前には半透明のポップアップが表示された。



 【バグ認識】あらゆる場所でバグを見つける能力。


                         」


 ポップアップが消えると、正義はあたりをキョロキョロした。すると、虹色に歪んだ一部に電子回路のバグ現象を発見した。すぐにその場へと泳いでいく。


(これがバグなのか? それで? これから俺はどうすればいいんだ?)


 正義が疑問を抱くと、再び頭の中で声がした。


『そのバグの前で◇一礼して左に回転し一礼、右に回転し一礼、再び左に回転し一礼◇してください』


(って神社の茅の輪くぐりかよッ! ま、まあとりあえず試しにやってみるか……)


 正義は無重力版茅の輪くぐりを実行した。でんぐり返しのようにその場で回転し最後の一礼が終わる。するとバグに亀裂がはしり、そこから真っ白なドアが出現した。


(ここから脱出できるのか!)


 ドアを開け放つと、真っ青な空が迎えた。正義は急に重力に圧されて地上へ落下していった。


「うわぁぁぁぁ~! またこれかよ!」


 正義が空へとダイブすると、白いドアは閉じて消えていった。正義はスカイダイビングのように手足を広げた。だが、このままではパラシュートもなく地上に落ちて即死コースだ。


(くそッ! 何とかならないか!?)


『まずはバグを見つけて下さい。でないと即死です』


(そんなの無茶苦茶だ! え~と、バグ、バグ、バグはどこだ~。あそこかッ!?)


 正義の下方には幻想的な電子バグ現象が発生していたが、その感慨に耽っている暇はなかった。


『そのバグに触れ女神様の顔を思い浮かべて下さい』


(このままおだぶつはごめんだぜ、やるしかない!)


 正義は空中を全力で泳いだ。落下速度は時速200キロメートルを超える。それでも泳ぎもがき、無理やり方向転換させていく。


(おりゃああああああ~、ギリギリか!)


 右腕を伸ばし中指にバグが触れる数センチ手前、その瞬間、正義は走馬灯を見た。


「死んで……たまるかッーーーーー!!!」


 正義は全神経を右手中指に集中させた。渾身の意志は正義に微かな前進力を与え、そして指が触れた。と同時に、天界の女神の声が頭に響いた。


《まさよし~~~~~!!!》


 すると正義の身体は宙に浮き、赤子が揺り籠に揺られるようにゆっくり穏やかに下降していった。


(ふう、なんとかなった……。さっきの声は?)


《あ、まさよし~? 元気してた?》


(お前!? さっきの女神か!?)


《そうそう、それでね? 今度からあんたと会話できるようになったから》


(電話みたいなものか?)


《そ、女神直通のホットラインよ。あなたが私を念じてくれれば、こっちの電話が鳴るから》


(すごい機能なのに、受け手は原始的だな)


《文明の利器は分かりやすい方が使いやすいのよ。それとあなたに【バグ認識スキル】賦与しておいたから》


(そうそれ! なんだあれは? たしかバグを認識する能力だったよな)


《あれは【神スキル】の1つで、とってもレアなスキルよ》


(いや、神とかレアとかそいうことじゃなくてだな)


《まあ使っているうちに分かるわよ。そのスキル、勇者よりスゴいんだから》


(どういう意味だ?)


《反則……みたいな?》


(良いのか悪いのか分からんな。まあいい、とにかく助かったよ。ありがとう)


《あ、それとあなたの身体だけど。カオスゲートでかなり変形したと思うからよろしく~。じゃあまたね、まさよし》


(おい! 変形って? 聞いてないぞ!? 一体どういう??)


「って! 幼女になってる~~~~~!!?」

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