第3話

──無機質な部屋のなか、ナオリは机に座り、机の上に置いてある写真立てに向かって、話しかけていた。


 飾られた写真立てには、ユミの微笑んだ顔が映っていた。


「……前にさ、本のこと話したろ? とある家族の話が書かれてあった本。あれにはまだ“続き”があったんだ」


 ナオリはユミの写真に向けて、本の内容を語った。


 その本に書かれていたのは、戦争でバラバラになる家族の話だった──


 戦地で次々に命を落としていく家族の末路が描かれており、物語の最後には末っ子の男の子が、自分の住んでいた家にたどり着いて眠りにつく──物語はそこで幕を閉じる。


「……でも、その描写だけだと、本当に末っ子が生き残ったかどうかは分からないままなんだ。家は末っ子が飢えて瀕死のときに見た幻だったかもしれない……」


 ナオリはユミの写真にむかって、真剣な表情で尋ねた。


「きみはどう思う? 末っ子は死んだと思うかい?」


「昔の俺なら、“末っ子は死んでた”と思う。でも、今は……“生きててほしい”って思えるんだ。おかしいよな。死ぬことが正しいはずなのに……」


 ナオリは少し声を震わせて頬を拭うと、椅子から立ち上がり、小さな窓から差しこむ太陽の光を見つめた。


「……明日、俺の出撃・・が決まったよ。命を懸けて、きみが救った世界を必ず守ってみせる」


 ナオリは部屋の扉の前に向かうと、ドアノブに手をかけた──が、ナオリはドアノブを回す手を止め、肩越しに振り返った。


「……な? 最後に一つだけ聞かせてほしい」


 ナオリはユミの写真に向かって言った。


「──俺は明日、死ぬと思うかい?」


 ナオリが部屋を出ると、扉は誰の力を借りる事も無くパタン、と閉じた。

 写真に映ったユミの微笑んだ視線は、閉ざされた扉にいつまでも向けられていた──。

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怪獣の子供たち 翠雨このは @namakemono10

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