第7話 家族が増えると事件も増える
車がシャッターに突っ込んだ音を聞きつけ、外に出てきたサナさんたちがこちらに駆け寄る。
「大丈夫かシンリ⁉」
「だい……、丈夫です……」
俺は扉を開け、ずり落ちながら外に出る。いくらモンスターと衝突しても無事だからとは言っても、あの速度でのシャッターとの正面衝突は、腰が抜けるほど怖い。
「くぉおおらババア! 何度言えばわかる! 近場からアクセルベタ踏みで山に登ったら、停まれんとあれほど言ったじゃろうが!」
「あらあら。いつの間にこんなところにシャッターが?」
「最初からあったわ! たわけが!」
「さあ皆さん、もうこんな時間ですし食事にしましょう」
「人の話を聞かんかこのバカたれぐはぁ!」
トメさんの腹パンがゲンジさんに直撃し、ゲンジさんは顔から地面に崩れ落ちた。
「ゲンジさあああああん!」
「それじゃあ準備してきますね」
トメさんは、何事もなかったかのように、家の中に入っていった。
「ゲンジさん! 大丈夫ですか⁉」
「うう……。はっ!」
よかった、生きてた。
いや、さすがに殺すということはないだろうが、なかなかにドギツイのが入ってたから、さすがに心配になる。
「あの、いつもこんな感じなんですか?」
「いつもかどうかはわからないが、大体こんな感じだな」
この様子を見ていたノアがサナさんに、どこか呆れた顔で聞いていた。
よく見るとノアは、作ってもらったであろう白いワンピースを着て、髪も切ってもらっていた。
「お、ノア。そのワンピース似合ってるね。髪も切ってもらって」
褒められたノアは、えへへと、少し照れたように頬を軽くかいた。
「うう。わしはいったい……」
「あ、起きた。大丈夫ですか?」
「確かばあさんに……」
どこか記憶があやふやなゲンジさんだったが、変形したシャッターを見て、苦虫を噛み潰した顔になった。
どうやら思い出したご様子。
「まったく……。あのばあさんは……」
そういいながらゲンジさんは、壊れたトラックとシャッターを治す。
「さて、それじゃあわしらも家に戻るかのう」
俺たちはゲンジさんの後を追い、家の中に入る。すると、お風呂上がりのトメさんが、すでに食事をとっていた。
マイペースだなぁ……。
俺たちも遅れて食事をとり始めるが、ゲンジさんとトメさんは、あっという間に食べ終えてしまった。
もとから食べる量が少ないのかもしれないが、遅れて食べ始めたゲンジさんは、明らかに早すぎた。
俺は気になり時間を確認する。時間は間もなく六時。食べ終わった二人は、それぞれ自分の部屋に戻っていった。
「あの。お二人はどうされたのですか?」
「ああ、あのお二人は六時になると、問答無用で眠りに落ちてしまう。だから、それまでの間に、食事も終わらせてるんだ」
「へーなるほど。そうなんですね」
「ああ。細かいことはこれを見るといい、大体のことは書いてある」
「なんですかこれ……」
ノアは、サナさんから渡された、『これだけでわかる! 神様の扱い方!』というマニュアルを見て、若干引いていた。
気持ちはわかる。
「ごちそうさまでした」
そんな話をしているうちに、食事をとり終わる。
「やはり箸は難しいですね……」
「大丈夫だよ。次第に慣れていけばいいさ」
「ああ、シンリの言うとおりだ。すぐにできないことだってある」
そういわれたノアは、どこかほっとした様子で、机の上を見つめていた。
食器を片付けた俺は、その後風呂へと向かった。
よく考えると、ここの風呂に入るのは初めて。というか、ここにきてまだ二日目なのに、なんかいろいろと凝縮されすぎてる気がする。
「うわ……。やっぱすげえなここの風呂」
浴場に入ると、相変わらずの広さと造りに圧倒される。俺はお湯に浸かり、リラックスする。
「明日は何やんだろうなぁ……」
こんな大変なことに巻き込まれているが、俺はこの生活に、とても満足していた。
風呂から上がると、サナさんとノアが、縁側から外を見ていた。
「お待たせしました、お風呂あがりましたよ」
「ああ、報告ありがとう。行こうかノア」
「はい。……あの、もう少しここにいてもいいですか?」
「ああ分かった。先に行っているぞ」
そういったサナさんは、先に風呂場へと向かった。
「不思議なものですね……。今まで守ってきたものは簡単に壊され、外の光を見ることないと思っていたのに、こんなきれいな場所に居て……。私は馴染めるでしょうか」
「アイス食べながらそんなこと言われても。もうがっつり満喫してるじゃん」
「うっ……」
ここにきて半日だが、ものすごい馴染んでいる様子。
「まぁ、楽しそうにしてくれてよかったよ。お風呂行っておいで」
「はーい」
ノアはトテトテと、サナさんの後を追っていった。
なんか午前中までの、祠守ってた時の神々しさというか、威厳が無くなっている。
「まぁいっか、ノアも楽しそうだし」
俺も縁側で横になり、夜風に当たる。湖の近くを、蛍が飛ぶ。奇麗だなぁ。
景色を見ていると、うとうととしてしまう。
「……リ。お……ろ……。シンリ、風邪をひくぞ」
「はっ」
目を覚ますとそこには、お風呂上がりのサナさんがいた。
どうやら、少し眠ってしまったらしい。
「すみません、ありがとうございます」
「なに、気にするな」
「こんなとこで寝るなんて、だらしない人ですね」
サナさんの隣に、今日作ってもらった寝間着を着たノアに、言われてしまう。それよりも。
「あれ……。ノアまた縮んだ?」
今日作られたはずの寝間着が、少し大きいのか、ちょっとダボっとした感じになっている。
「洗ってる途中にまた縮んでな……。さすがに二回目となると心臓が止まるかと思ったぞ」
縮んだといっても、身長が三センチほど小さくなっただけだが、なんで縮んでいるのだろうか。
「なんだか、お風呂に入ってれば、まだ出そうな気がします。なんか体の中に何か残ってる感じがします」
どうやらまだ小さくなるご様子。
「何か残ってる? どういうことだ?」
「なんていうんでしょう。あの祠につながれていた時に、封印されてる人の力が流れてきたというか……。まあそういうことです」
サナさんの質問に、いまいちわかっていない様子で回答するノア。というかまた幼くなってないか?
「なるほど、そういうことか……。ならもう一度入るか?」
「そうですね……。このままだと、明日また服を作ってもらっても、その日お風呂に入ったら、縮んでしまって着にくくなってしまいますし……」
そういうと二人は、再び風呂へと向かった。
一人残された俺は、時計を確認する。時間は八時をちょっと過ぎたくらい。今日いろいろあったにしても、まだ体力が残っており、そんなに眠くない。俺は靴を履いて外に出て、辺りを軽く散歩する。月が湖に反射し、美しさがより一層際立つ。
「ん? あれは……」
湖の反対側に、何やら、白い蛇のような生き物を見かける。
「……でかくね?」
湖の反対側まで、そこそこにあるが、今の場所からでも、でかいとわかるほどだった。
信じられず、一度目をこすり、蛇のらしき生き物がいた場所を見ると、そこには何もいなかった。
「気のせいだったのかな……」
気分を落ち着かせるために少し歩き、家に入る前に、一応ポストの中を確認する。するとそこには、一通の手紙が入っていた。
「こんな時間にも入ってるんだな。誰からだ?」
名前を見ると、ギルド長からの手紙だった。
一体何事だろう。俺は封を開け、中身を見る。
『あの後団員に調査に行かせたんだが、拠点全部の壺が割られてた。何か知ってる? 盗まれたものも割られてたから何か知っ……』
俺は手紙を読むのを辞め、家に入り、「知りません」とだけ書きたし、配達用のポストへぶち込んだ。
「……これで良し!」
いや、別に何も良くない。でも、事実を知ってるのは俺だけなんだし、俺が違うといえば違うことになる。だから俺たちは悪くない。うん、悪くない。
そう言い聞かせた俺は、家に戻る。
「ん? シンリ、どこに行っていたんだ?」
家に戻ると、お風呂上がりのサナさんが、ノアの髪を乾かしていた。
「本当にまた小さくなってる……」
風呂から出たノアは、また小さくなっており、横に並ぶと、頭のてっぺんが、俺のへそほどの場所になっていた。
「これでもう出し切ったと思います!」
ノアが両手を挙げ、嬉しそうに報告してくれる。もしや、ノアが最初のうちは賢そうな口調で話してたのって、封印されてたやつの影響?
というか、この姿を見たトメさんとゲンジさんが、明日起きた時に腰を抜かしそうで怖い。
「ノア、まだ髪が乾いてないぞ」
「はーい」
ノアはサナさんの前に座り、髪を梳いてもらう。俺が帰ってきて時には、腰くらいまでだった髪が、小さくなった影響か、また地面に付きそうになっていた。
「服も大きくなっちゃったし、また明日作り直さないとね」
「うう……、せっかく気に入ってきたのに……」
「大丈夫。ノアが大きくなった時に、また着れるさ」
落ち込むノアに、サナさんが頭をなでる。こうやって見ると、ただの親子である。
「それじゃあ、自分はそろそろ寝ますね」
「ああ、お休みシンリ。お疲れ様」
俺は挨拶をし、自分の部屋に戻る。部屋に戻った俺は、畳んである布団を広げ、カバンから日記を取り出す。になりながら筆をとった。
この日記、ここに来てからの様子を書こうと思ったが、初日から書き忘れていたため、二日分書かなきゃいけない。まだ忘れないうちに、昨日の出来事を思い出す。
「えーっと……何があったっけ……」
俺は昨日のことを思い出すため、目を閉じて集中した。
チュンチュン。
「はっ」
外から聞こえる鳥の鳴き声で、意識が戻る。ゆっくりと起き上がり、外を見ると、日が昇り始めたのか、ほんのり明るくなっていた。
時間を見ると、五時。どうやら俺は、日記を一文字も書かずに、寝落ちしたらしい。
「ああ……。なんで横になりながら書こうと思ったんだ……」
昨日の夜の俺に文句を垂れながら、日記を拾い机の上に乗せ、手早く日記を書く。
「さて、起きるか」
十分ほどで日記を書き終わった俺は、着替えを済ませ、大広間に向かった。
「私服持ってきたけど、運動着以外着てないなそういえば……」
大広間につくと、俺と同じように、運動着姿のサナさんがいた。
「おはようございます、早いですね」
「ああ、寝た時間が早かったからな」
「あれ、ノアは?」
「まだ眠っている。初めての布団だからな、ぐっすりとしていたよ」
微笑ましいことで。
「おはようお二人さん。早いのう」
「あ、ゲンジさん。おはようございます」
「ああ、おはよう。まだ朝食までに時間はあるから、ゆっくりしててくれ」
「はい、ありがとうございます」
そういうとゲンジさんは、釣竿を持って外へ出る。
「それじゃあちょっとポストの方へ」
「ああ、さっき私が行ってきたが、何も入ってなかったぞ」
「え、ほんとに?」
いつものこの時間なら、配達されていないということはない。ということは、きょう一日自由というわけだが……。
「何しましょう」
「ゲンジさんたちの手伝いだな。他にはノアのこととか」
そうだった、外からの仕事がないだけで、この家にはできることがまだ沢山あった。
だがそれも、ゲンジサンたちと話さなければ何も進まないので、俺は畳に腰掛ける。
「そういえば昨日、サナさんが二回目のお風呂に行ってるとき、外を散歩してたんですけど、変な蛇を見たんです」
「変な蛇?」
「はい。なんか遠くから見ても、大きいってわかるくらいの白い蛇で、蛇だったかもわかんないんですが、ずっとこっちを見てて」
「そうなのか……。もしかしたら、この山の守り神なのかもな」
「守り神ですか?」
「ああ。白い生き物は神の使い、という話がある。ノアもあの山の守り神みたいなものだからな。そういう生き物がいてもおかしくないさ」
「なるほど。まぁこっちに危害がないなら大丈夫ですね」
まあこちらが何もしなければ、何か起こることもないだろう。触らぬ神に何とやら。
「あら? お二人とも早いですね。おはようございます」
「あ、トメさん。おはようございます」
「はい、おはようございます。ご飯はもう少し待ってくださいね、おじいさんが魚を釣ってきますから」
「あの湖、魚もいるんですか?」
「ええ。ほら、ちょうど何かかかったみたいですよ」
湖のほうを見ると、水しぶきを上げた湖から、大きな白蛇が姿を現し……。ちょっと待って、あれ昨日見たやつだ。
破壊神ババアの取り扱い方 緋華 @Rca26
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