第9話 おもい

 今日はとびっきりの快晴で、最高の花火日和の天気だ。


 美雨と会うまでに2時間ほどあるから服装にも気合いを入れて行く。

 普通花火大会といったら甚兵衛とかそういう類のものだけど、今日は俺の人生の一大イベントだからスーツかな。


「母さん、父さんの使ってないスーツ一式ってない?」

「つくるスーツ着て行くの?」

「うん」

「じゃあこれ着てきな」


 白いワイシャツを身につけ、スラックスとジャケットを羽織り、真っ赤なネクタイをつける。

 今は暑く感じるけど夜になったら涼しくなるだろう。


 鏡の前に立ち、少し髪型をいじる。

 うわあ、俺めちゃくちゃかっこいいじゃん。

 あの二人に自慢してやろ。


 つ:「この格好かっこよくね?これは会場でジャ○ーズ事務所からオファー来るね」

 け:「草」

 ひ:「え、花火大会にスーツで行くのw」

 つ:「そんぐらい気合い入れないとダメでしょ」

 ひ:「まあつくるっぽいしいいんじゃないw」

 け:「お前告白の文章前の怪奇文章っぽいのじゃないのにしろよ」

 つ:「まあ任せなさい」

 ひ:「がんばれ!」

 け:「まあうまくいかなかったらりんご飴ぐらい奢ってやるよ」

 つ:「おう、頑張る」


 さあ、時は満ちた。

 いざ花火大会へ


 ***


 会場は人でごった返していた。

 浴衣を着た人、半袖で来た人などみんないかにも花火っぽい格好で来てた。

 あれ、俺の格好めちゃめちゃ浮いてない?

 なんかさっきも

「ママ、なんか若者がスーツ着てるー」

「こら、いくら変な格好でも人の格好について悪く言わないの」

「ママの方が悪く言ってるじゃん」

「あ」


 別に傷ついていないんだけどね。


 あー美雨早く来ないかなー。


 周りを見渡すと彼女と目が合った。

 白い浴衣に身をつつみ、髪型も普段と違った。

 どこか大人っぽいその格好はずごく美しかった。

 一瞬釘付けになっていたが彼女の方に走り出す。


「おーい、美雨」

「あ、つくるくん」

「格好似合ってるね」

「つくるくんお父さんみたいな格好してるー」と美雨はめっちゃ笑っていた。


「さ、美雨さんいきましょうか」

「いこっか、つくる」


 露天によってりんご飴や焼きそば等を買い、花火を鑑賞するためにレジャーシートを引き、腰を下ろす。

「この焼きそばうっま」

「少しちょうだい」

「ほい」

「あ、じゃあいただきます」

「ママー、さっきのスーツの人いちゃいちゃしてるー」


 お嬢ちゃん決していちゃついているわけじゃないんだよ。

 美雨が少し赤くなっていた。

「大丈夫?」

「うん」


 そんなこんなしてたら花火が始まった。

 花火が始まったらやることは一つだけ

「あのさ、美雨」

「うん」

「俺美雨(ドン)こと(ドン)だ」

「え?」

「俺(ドン)き(どん)だ」

「ねえつくるー」

「うん」

「花火で何も聞こえないからあっち行こ」


 美雨に身を負かして、手を引かれる。


「さあつくるついたよ」

 そこは閑散としていていわば秘境のような場所だった。

「ほら見て花火も綺麗だし、音もそこまで大きくないよね」

 それを言った美雨の横顔はいと美しいものだった。

「あの、美雨さん」

「うん」

「俺は、その美雨と付き合いたい」

「つくー」

「ごめん焦りすぎて言葉が足りなかった」

「うん、いつまでもまってるよ」

「俺が初めて美雨のことが気になったのは入学式の時だった。そっから美雨のことがずーっと気になっていて、運動会で横に立った時はあまりの緊張に走れなかった」

「うん」

「それで同じクラスになって一緒に仕事をした時は楽しかった。そっから少しずつ関わりを持つようになってきて、美雨の全てが好きになってきてた。あなたと過ごす時の雰囲気だったり空気が好きです、これからもあなたと思い出を作りたいです。美雨が好きです、俺と付き合ってください」

 そう言って手を差し伸べた。

 しばらくしても反応がない。

 あ、これって


 すると美雨が手を握ってくれた。

「みー」

「つくるくん、私は中学の時のトラウマをずっと引きづっていた。完璧の自分を見せるために愛想良く、この外見の名に恥じないように振る舞ってきた。だからこそ周りの人たちとは形上しか仲良くしてなくて、みんなとどこか距離があった」

「そんな私に対して、あなただけ何も取り繕わずつくる君のありのままで私に接してくれた。より関わって行くうちにあなたとの時間がとっても大切なものでこれからも続けたいものと思っている自分に気がついて、あなたのことが好きになっていた。私は重い女であなたのことをたくさん困らせるかもしれないけど、それでもよかったら私と付き合ってください」


 つくる君はもしかしたら本当の私に対して気持ち悪いと思ってしまうかもしれない。けれどこれからこの人と過ごして行くなら、本音は絶対に打ち明けたい。

 彼から何も返事がないからおそるおそる顔を見てみると彼は泣いていた。


「美雨と付き合えた」

「私はとっても重いよ」

「俺こそ美雨のこと高校に入ってからずーっと気になっていたし」

「ふふ」


 ふとしょっぱさを感じた。私は気が付かずに泣いていた。


「つくるが泣いたせいで私も泣いちゃってる」

「美雨かわいい」

「...」

「恥ずかしがって顔背けるのかわいい」

「...」

「ねえ美雨こっち向いて」


 つくるの鼻と私の鼻が触れ合うほど近くにつくるはいた。

「つくる近い」

「いやだ」

「いやじゃない」

「かわいいー」

「もう、意地悪なんだから」

 そんな彼の口を塞いでやった。


「なな」

「つくるったら案外照れ屋なのね」

「お返しだ」

「きゃあ強引につくるが襲ってくるー」

「照れ隠しめー」

「えー」


 その後も美雨とふざけ合った。


 家に帰ってきたら、父さんが俺のスーツがシワだらけにーとか言ってた。

 ああ、俺お小遣い減るかも。


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猫、時々晴れ 星降る夜に @yumezora

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