(4)

 屋上へ続く階段を昇りながら、さくらはスマホを開いた。


"いつもの場所で"


 久しぶりに届いたハルからのメッセージ。あれからお互いに飛び降り予告をすることは無くなっていた。


 扉を開くと、あの日と変わらない場所でハルが待っていた。夏の風が、短くなった彼女の髪を揺らした。


「あ〜っ! ショート似合いますね〜!」


「ひさしぶり」


「さては失恋ですかぁ〜?」


 あいかわらずのウザ絡みをしつつ隣に座ると、ハルはさくらの頭を軽く叩いて「残念、ただの気まぐれ」と微笑んだ。


「はあ〜!? 私はこないだ思いっきり失恋したんですけど!?」


「知らんし。……で、あれからどうしてた?」


 訊かれて、さくらは懐かしむような視線を空に向けて答えた。


「ま、色々ありましたよ。恋愛もしましたし、バイトもしましたし、勉強も……ほどほどにしましたし。世の中、私の知らないことがまだまだあるんだなってよくわかりました。割と楽しかったですよ」


「ふーん。右に同じ」


「……なんかテキトーじゃないです?」


「そういうんじゃないけどさ。……別の世界を知ったことで、結局、私はここにいた時間が一番好きだったんだなってわかった。だから、他のことは別にいいかなって」


「それ、遠回しにコクられてます?」


「かもね」


「しょうがない。最後まで付き合ってあげます」


「止めるんじゃなくって?」


「ええ。どうせ、もう誰もいませんし」


 さくらは破れたフェンスの隙間から身を乗り出して地上を眺めた。あちこちで火の手が上がり、豆粒のような死体がそこら中に積み上がっていた。ちょうど、あの日から五年が経っていた。


「ん」


 ハルが手を差し出すと、さくらは彼女をギュッと抱きしめた。


「途中で離れたら困りますから」


 体と体が触れ合い、お互いに震えているのが伝わった。


「……怖い?」


「だって、怖くないとすぐ落ちちゃうんでしょう?」


「そうだね」


 トン、と地を蹴って。


 ふたりの時間は止まった。


-おわり-

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とびおり前には一声かけて 権俵権助(ごんだわら ごんすけ) @GONDAWARA

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