1-6 玄冬
(……どちらも、最初期のプロトタイプ……しかも、オリジナルか……採算度外視、制御困難な超高レベル実験体……クク……まだ稼働しているとは、よほど物持ちの良い主人に使われてきたのだろう……しかも、この波動……同時に二体使役とは……さすが……特一級ネクロマンサー……!)
「おい、貴様も名乗らぬか!!」
リリがさらに牙をむく。
「……たわけが……正直に名乗る
「ナニぃい!?」
「……と、思うたが、骨董品に敬意を表し、名乗ろう」
「なっ……!」
「身共は玄冬」
「ゲ……?」
「ゲントー?」
聞きなれぬ発音に、二人が眉をひそめた。妙に幻惑される。言霊による思念攻撃か?
「
云うが、ゲントー、次元回廊内戦闘を展開。
「…チッ!」
一瞬、遅れた。
その時には、ゲントーが二人現れ、それぞれリリ、ピーパと対峙する。
「ニンジャめ、分身か!?」
「違う、リリ殿、次元複写だ! どちらも実体ぞ!」
「パラレルボディ! 器用なことを……!」
思念会話中にも、二人のゲントーが腰の後ろから光子振動刃装備の小刀を抜きはらい、斬りこむ。光子振動は、対アンデッド装備だ。肉体はおろか、
ピーパが禁呪法を用い、ゲントーの斬撃を封じた。だがリリは避けるか、次元反転で元の世界に戻るしかない。
(こやつを表には出せぬ……!)
身をよじって小ジャンプぎみに避け、高級なクラシカルドレスのスカートが切り裂かれる。
だが、体術ではゲントーが何枚も上手だ。
近接で斬撃からの捻り後ろ回し蹴りが、空中のリリへ突き刺さった。
「…げふぉ!」
脇腹を抉られ、くの字にひしゃげて錐もみでぶっとぶ。
「リリ殿!!」
他人の心配をしている場合か、とでも云いたげなゲントーの視線が、覆面と面頬の奥からピーパへ突き刺さる。斬打を禁じられた一体が、攻撃を体術へ切りかえた。半身から斜めに入って、肘打ちをくり出す。
「……なめおって!!」
ピーパも、古代戦闘術である「
「……む!」
信じられない軟体さと歩方、そしてバック宙返りで、ゲントーがそれをかわした。すかさず追い打とうとしたピーパの背中へ、もう一人のゲントーが光子手榴弾を投げつけた。
光子手榴弾は、爆発というより閃光弾のような効果を発揮した。が、その光は只の光ではなく光子散弾と同じだった。人間が浴びても、無数の光子線に物理的には細胞を、霊的には
間一髪で爆発の効果を禁じたピーパだったが、多少のダメージはくらった。光にまみれて転がり、しばし動けぬ。
その隙に、二人のゲントーが一人へ戻り、次元反転して元の世界へ逃げた。
とたん、高層階にアンデッド警報が鳴り響いた。
人々は、一瞬でパニックとなった。
警備用とは名ばかりの、重戦闘殺人兼対アンデッドユニットが次々に起動する。我々の時代で云う、全自動ドローンとロボットとアンドロイドを合わせたようなものだ。
「ぬ、主殿! すまぬ! 逃げられた!」
倒れたまま、まだ動けないピーパが思念通話を飛ばした。
リリがピーパを助け起こし、次元回廊から抜け出てゲントーの後を追う。
ゲントーはすぐさま
はずだったが……。
「う……!!」
音速を超え、ソニックブームが現れると思ったゲントーの動きが、見る間に遅くなった。
(これは……!)
そのゲントーの前に、どこからともなく少年が現れて、立ちふさがった。
と、云っても、ズボンのポケットへ両手をつっこみ、ふらふらと通りがかったように思える雰囲気だった。
先祖たちのゲノム編集による美容変異技術により藍色がかった濃い群青色の髪と空色の目を受け継いでいる少年は、しかし、この階層の住人ではないし、そもそもヨールンカ市民でも無い。まして、パニックとなってアンデッドの前にわけもわからず出てきたわけでも無い。
「う、おっ……!」
ゲントーが、完全に止まる。
動きが強制的に制動されて、まるで金縛りだ。
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