1-7 ミュージアムの特一級ネクロマンサー

 (これは! ……そうか……こいつが、ミュージアムの特一級ネクロマンサー……マエストラル・コンダクター……あの二体の主人……か……!)


 その二体、リリとピーパが、後から凄まじい形相で迫ってきていた。まさに恐怖を振りまき、人の血をすすり、肉を喰う鬼だ。ヨールンカ市民が、この二体を見て恐慌を起こすほどの。


 (さすがに、三対一は……厳しいか……)

 ゲントーが判断を迫られる。

 「ゲントー、引きなさい」


 そのゲントーへ、思念通話が入った。

これも、男とも女ともつかない加工音声だった。


 「御館様……!!」

 「行動が筒抜けの時点で、私達の負けです」

 「畏まって候」


 一瞬にして、ゲントー、退避用の特殊回廊を開き、まるで忍者屋敷の壁返しが如く、、と次元を反転させ、消えた。


 「な……なんと……!!」

 リリが波動を関知し、唸った。既に、ヨールンカ及び近隣空間に、まったく気配はない。

 「さすが地獄ニンジャ……逃げ足も鬼みたいに速いなあ」


 少年……いや、歳の頃は十代後半に見えるので、青年といったほうがよい……青年が、濃い藍色の細い片眉を上げてつぶやいた。


 「マスター!」

 「主殿!」


 リリとピーパが、青年の前に立つと臣下の礼をとる。リリは大きく切り裂かれたスカートの裾を持って片足を引き、またピーパは片膝をついて両拳を合わせ、それぞれ礼をし、


 「申し訳もござりませぬ、あやつめの、足止めすらかないませなんだ」

 ピーパの言上に、青年がため息をつく。

 「だから、いちいち、そんなことをしなくていいって……それも、こんなときに」

 「そうは参りませぬ」

 「いつまでもお堅いね……分かったから、顔をあげなさい」

 「ハッ」

 二体が顔を上げた。


 「丙型のゾンビを陽動に、本命がヨールンカの要人を暗殺……とは、ずいぶんと手の混んだテロだと思ったけど……あんなのが出てくるようじゃ、これはもう……テロというレベルじゃないね。戦争だよ」


 「いかさま」

 「ま、それは後で考えるとして……とにかく、僕たちも逃げなきゃ、ね」


 すごい勢いで、何十という数の電磁浮遊式重戦闘ユニットが飛んでくるのを見やり、青年が苦笑した。


 リリとピーパが同時に青年の腕をそれぞれとり、次元反転してその場より消えた。

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