1-4 重アンデッド兵器
云うが、ゾンと呼ばれた怪物が、そのままドシドシとゾンビどもに向かって歩いた。
ゾンビ群も、こうなれば対重アンデッド兵器戦闘モードに入った。
真っ先に雄叫びをあげ、ゾンに向かったのは同じ程の体格のあるイエティ・ゾンビだ。
そしてすかさず、残った十数体のゾンビが三手に別れてゾンに向かった。
四方向同時攻撃。明らかに統率された連携攻撃だ。
(フン……生意気に、軍事訓練を受けたコンダクターがいやあがるな)
ゾンが小首をかしげ、周囲の霊波や魂魄子の流れを確認する。
「ゾン!」
「相手じゃあねえよ」
ゾンの巨体が、
硬化アスファルトの地面が凹むほどの力で片足を踏みつけるや、地面から稲妻のような霊力の筋が幾本も伸び、左側から迫る五体のゾンビ部隊を直撃。感電というより、そのまま
そして真正面から太い腕を振り回して踊りかかるイエティ・ゾンビめがけ、それ以上に太い腕で豪快に正拳突き。物理的威力もさることながら、重力レンズでエネルギーを縛縮させるように霊圧が一点集中、炸裂した。
一発でイエティ・ゾンビの厚い胸板に大穴が空き、腐った血肉と骨が後ろにぶちまかれた。
イエティ・ゾンビが倒れ臥すと同時に右手側の四体が一気に速度を上げ、ゾンに
少し遅れて、大ジャンプで空中に飛び上がった六体が、放物線を描いて上空から迫った。
「洒落臭えっつってんだよ!!」
右より弾丸めいて迫るゾンビ群の
またもグシャグシャにひしゃげ、くの字になってゾンビ部隊がぶっ飛ばされる。ただ殴っているのではない。強大な霊圧攻撃でもある。ゾンビ兵は、肉体と
そして空中から落ちてくる質量攻撃には、
「バオオオオオ!!」
咆哮と共に、不完全燃焼の有毒ガスを大量に含んだ真っ黒な猛煙と、その合間に光るオレンジの猛火がゾンの大口から吹き出された。空中を進みながら煙が次々に発火し、爆発しながらゾンビを巻きこんだ。
その全ての行動が、
「ケぇッ! 丙型じゃあ、相手にもならねえな」
ゾンがまだ煙が吹き出ている鼻先を親指でこすり、嘯いた。
「おっと……よく分からねえ乙型もいたな、そういやあ」
笑いながら、太鼓腹をボンボンと叩いた。
「あわ……わわ……!」
警官たちが、ゾンに震え上がって抱き合っている。
その警官を白濁した眼で睨みつけ、
「おい、こいつら、どうするんだ? 消すのか?」
「バカ云ってないで、探知される前に帰ろう」
「へっ……オレ様の位相空間制御が、こんな高層都市ごときの次元探査にひっかかると思ってやがるのか」
「いいから、早く!」
「せめて、記憶を消せよ」
「あたしのコンダクツにそんなのないし、特殊な医療器具が必要だよ」
「そうかい。……おい、見逃してやるってよ!!」
ゾンがそう云って警官たちの前にわざと足を踏み下ろすと、全員が気絶してしまった。
「ほら!」
少女の声に耳を貸さず、ゾンがふいと空……いや、高い吹き抜け構造の大規模市街施設の天井を見やった。
(ははあ……なるほど、こっちは陽動ってわけかい。何か所かに丙型ゾンビを分散させ、州軍の特殊兵やらコンダクターやらを向かわせておいて、本命はガラ空きの最上階地区を狙うッてえ寸法だ。単純だが、効果はある。小せえトコロの仕業じゃあねえな。いよいよ、『死者の国』のお出ましか……?)
「なにしてんの!?」
「なんでもねえ」
ゾンが観音開きに位相空間転移ゲートを開き、少女をひょいと抱え上げてその左肩に座らせると、ゲートの奥に消え、瞬時にゲートも消失した。
その、ヨールンカ市最上階地区。同時刻。
中央タピル区第七一七階の片隅である。
六五〇階から七五〇階までの超高層階には、市議会や州議会、市役所、州政府機関を含めた行政機関と、政治家、高級役人、大企業の社長、超高名芸能人等の極々一部の超高級市民の住宅区がある。七五〇階から上の最上部は施設階であり、巨大な都市の維持施設及び防衛施設群、それに極少数の管理者しかいない。この構造は、およそ世界中にある超高層都市のどこでも基本的に同じだった。
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