1-3 ドラゴン・ゾンビ

 至近距離から下方に向けて光子バルカン弾が放たれたが、一、二体のゾンビを蜂の巣にしたところで、イエティ・ゾンビがさらに両手を合わせて振り下ろす。機体が大きく凹んで火花が散り、168号はさらによろめいた。そこで数人がかりのゾンビが脚を一本ねじりながらへし折り、さらによろめいたところを相撲のように両手を地面につけたイェティ・ゾンビがタックルでぶちかましをかけ、168号は仰向けにひっくり返った。


 そのまま、イェティ・ゾンビが馬乗りになって叫びながらボコボコに殴りつけ、次々に脚を折り、放り投げた。


 気がつけば、168号は火を噴いて機能停止していた。

 「な……なにが……!?」

 動けない警官たち、最悪の気分の中でその光景を目の当たりにして、

 (今度こそ、死んだ……)

 その警官たちとゾンビどもの合間に、ふと、何かが立ちふさがった。

 「……?」

 警官たちが目を見張る。なんだ? 今度は何が現れた?

 「ゾン! どうしたの!?」


 いきなりミドルティーンの少女の声がしたので、警官たちはまた驚いて声の方を向いた。


 薄ピンクの作業服を来た、濃いミルクチョコレート色がかったの茶金髪にエメラルド色の眼、日焼けしたような薄褐色の肌をした少女が、走ってきた。


 「あっ、お巡りさん、しっかりしてください!」

 少女が、横たわる警官たちに近寄った。

 「き……きみ……あぶな……」

 「ゾン! ちょっと、振動波効果を中和して!」


 少女がそう云うや、ゾンビ群と少女らの合間にいる「丸い物体」から、空間の歪みが少女をめがけて飛んだ。


 その歪みを全身に浴びた警官たち、急に身体が軽くなり、気分や体調が改善した。


 「こ……これは……!?」

 「お巡りさん、危ないから下がっててください!」

 「ええ!?」

 少女にそう云われ、警官たちが眼をむいた。


 その時、何体かのゾンビが、丸い物体に飛びかかった。まるで、獲物めがけてジャンプする大型のクモのようだった。


 「…ラよっ…と!!」

 野太い声がして、丸い物体がその太い腕を振りかざした。


 同時に、腕が分身したように六本にも見えて、吶喊とっかんするゾンビをそれぞれ一撃で弾き飛ばした。丙型とはいえ、かつて全宇宙を席巻した攻性ゾンビ兵器がグシャグシャにひしゃげて腐った血液や肉を振りまき、四方八方に飛び散って地面に転がり、あるいは建物の壁に叩きつけられ、動かなくなった。


 ゾンビ群、いきなり現れた強力な敵に混乱し、警戒モードに入って動かなくなった。


 「…………!!」

 警官たちは、もはやゾンビどもよりその「丸」に眼が釘付けとなる。


 よく見ると、その丸に太く大きな腕や脚、そして長い尾、さらに、背部には飾りのように小さな羽があり……太い首の先には、恐竜とワニを合わせたような大きな頭部が乗っている。


 (……なんだ……ドラゴン……ドラゴンだ……!?)

 班長が細かく震えながら、その「怪物」を見据えた。


 だが、ドラゴンと云っても、恐竜タイプの爬虫類状形態による、いわゆるファンタジー生物然とした「ドラゴン」ではなく、竜人だった。


 ただし、あんこ型の相撲取りもかくやというほど、でっぷりと肥えている。


 縦も横も、ついでに斜めも奥行きも三メートルはあるだろう。二足歩行ながらトリ脚を折りたたんで座っているように佇んでいるので、ますます真ん丸なシルエットだ。そこから、真後ろに太く長い尾が生えていた。


 だぶついた皮へ埋もれるようにがっしりとした巨大肉食恐竜めいた顔が乗っており、首は確認できない。頭には仰々しく大小十一本の角があるが、ところどころ折れていた。全身は濃緑色、灰褐色、海軍色が混じった迷彩模様のような配色だが、腐っているので全体にどす黒い。分厚い鱗もところどころ剥げ落ち、一部は骨すら見えている。


 透明の鱗に覆われた眼が、腐って白濁していた。

 ドラゴン・ゾンビである。

 「アンデッド……アンデッドなの……か……!?」

 「ああ!?」


 振り向いた怪物に、警官達が震え上がった。

 「ゾン、やめなよ、ちゃんと前見て!」

 「ケッ……」


 ゾンと呼ばれたドラゴン・ゾンビ、その表情豊かな言動と裏腹に無機質な爬虫類の顔をゾンビどもに向ける。


 「ゲート展開テストの最中に……とんだ連中と遭遇したもんだ」

 「でも、なんで、こんなところにゾンビが?」

 少女が、微動だにしなくなったゾンビどもを見やりながらつぶやいた。

 「知らねえよ」

 「野良ゾンビなの?」

 「さあ……な」

 「タダ働きだけど……」

 「しゃあねえだろ、洒落臭え」

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