第45話 小姓組番頭


   ◆◇◆◇◆◇◆◇


 村沢主税は、老中首座の土井利厚に呼ばれ、江戸を荒らす怪物討伐の大将を命じられた。


 「身に余る光栄でございます」

 と、村沢は頭を下げ、さらに深く頭を下げながら続けた。

 「ですが、わたくしには、いささか荷が重うございます」

 辞退したのである。

 本当に、身に余る光栄と思ったわけでは無い。

 面倒事を嫌っただけである。


 村沢の知行は3000石。

 将軍の親衛隊とも言える馬廻衆に属し、小姓組番頭を務めている。

 順当にいけば、書院番頭、大番頭へと、出世の道を進めるはずであった。

 ……土井様の頼みとは言え、つまらぬことで、出世の道を踏み外したくは無いわ。

 村沢は顔を伏せたまま、土井に見えない位置で、ふてぶてしく口の端を歪めた。


 「……お役目以外の面倒事には、関わりたくはないか」

 上座から届いてきた土井の言葉に、村沢はギョッとした。

 知らず知らずの内に、心根を口に出していたのかと思い、青くなったほどである。


 「い、いえ、そのようなことは……」

 村沢は慌てて顔をあげた。

 ふてぶてしさは霧散し、言葉を濁してしまう。


 「たしかに、江戸の治安を守るは、町奉行の役目である」

 土井は、慌てる村沢を無視して続けた。

 「しかし、実際に動く与力、同心は御家人ども。

 やつらの手に負えぬとなれば、我ら旗本が腰をあげるしかあるまい」


 それは分からぬではないが、なぜ俺が……。

 村沢がそう思うと、土井は、またも、その不満に答えるように続けた。


 「知行で言えば、そちより高禄の者は幾らでもいるが、その者たちは、先の町奉行を始め、勘定奉行、大目付、目付、奏者番など、役方ばかりで、こういう荒事には役に立たぬ」

 役方とは、文官のことである。

 これに対し、軍事を受け持つ武官は、番方と呼ばれた。


 「もちろん、番方で、そちより上の者いるが、歳を取り過ぎておったり、健康を害していたり、そもそもが無能であったりと、どうにも頼りにならぬ。

 その中で、唯一、わしが頼りになると思ったのが、村沢主税じゃ」

 土井の言葉は、村沢の自尊心をくすぐった。


 「どうじゃ、引き受けてくれまいか」

 土井は、言葉とは裏腹に、尊大な笑みを浮かべていた。

 老中首座の自分が、ここまで腹を割って頼んだことを、よもや断るまいな、と言った顔である。


 「謹んで、お引き受けいたします」

 さすがに断ることは出来ず、村沢は頭を下げた。

 しかし、いくつかの問題があった。

 これを詰めねばならない。

「しかし、引き受けるにあたって、土井様の御手をお借りしたいことがございます」

 

 土井は、分かっていると言うように小さく頷いた。



 ★☆★☆


雑事は終わったのですが、何故か燃え尽きてしまったかのように、しばらく書くことができませんでした^^;

別に大変なことがあったとか、そう言うわけでは無かったのですが、何故か書くことが出来ず、日数だけが過ぎてしまいました。

今もまだ、以前のように書けている気がしません^^;

字数が少なく、話も補足的な場面ですが、45話目を公開します。

どこかでスイッチが入ったら、また普通に書き始めると思います。

たぶん、書けば、スイッチが入ると思うのですが……^^;


また、皆様の物語も読みに伺わせてもらいます。

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