花奏の音3
「成宮さん、それはどういう……」
創也が戸惑う。
「わからない。でも、よくそう思うんだ」
花奏は苦笑した。創也が心配そうに見つめる。
「ほら、パーカスの女子って私だけでしょう?だから不安になるんだよね……いろいろと」
パーカッションのメンバーは、花奏と創也の他に七瀬律がいる。創也と仲良しの彼は、やはり平日の部活にしかこなかった。宿題が終わってないとか、さぼりだとか、部活にこない理由ははっきりしない。だから、休む理由を知っている創也とは違い、花奏も困ってしまうのだ。
「律は来ない時が多いでしょう?……何か知ってる?」
「……」
創也は黙り込んだ。
律はなぜ来ないのか。花奏は知らないそれを、創也は知っていた。今すぐそれを言えば、きっと花奏はさらに困ってしまうだろう。もしかしたら、勝手に自分のせいと思い込んでしまうかもしれない。
ただのさぼりではない。しかし、人に言うことはできない。困った話である。
「……来いって言っておく」
かろうじて、それだけ言った。
花奏は何かを察したのか、うつむいてしまった。
…………
気まずい沈黙。
創也は黙って花奏を見た。彼女の瞳は悲しそうに揺れている。
花奏は大好きなのだ。音楽が、部活が。だからこそ、人一倍頑張って、苦しんでいるのかもしれない。最近花奏の音がぎこちなく聴こえたのも、ひとりで悩んだ
結果なのだろう。
創也は音楽を短い期間しかやっていないのでわからないが……音楽が好きな人は、知らず知らずのうちに音楽に一生懸命になってしまうのだ。
それで花奏の音が壊れてしまうのならば。
誰かが、守ってやらないといけないのではないか?
「……成宮さん」
気づいた時には、創也は話し出していた。
「成宮さんは、きっと、悩みをひとりで抱え込んでしまう人です。それが積もりに積もると、成宮さんの演奏にも表れてしまうのでしょう。自分では意識していなくても」
なぜ、こんなことを言っているのだろう。
「律のことは、僕がどうにかします。だから、成宮さんはもう、気にしなくていいんです」
律のことは、創也がいちばん知っている。花奏が心配して心を砕くより、自分が直接言ってやる方がましだ。律は意外と単純だから、どうにかなる。
「教えて下さい。成宮さんが困っていること。僕がやれることはなんだってします。ていうか、成宮さんが頼まなくてもやる。だって……」
パートリーダーだけが、全て抱え込まなくていいから。
自分ひとりのせいにする必要がないから。
「成宮さんの音楽が、こんなことで壊れてほしくない!」
花奏はしばらく、呆然と創也を見ていた。
今の創也は、今まで花奏が見てきた中でいちばん頼りに思える。普段から自分を助けてくれるが、こんな創也は初めてだ。
「……私、創也が心配するような音出してたんだ」
知らなかった。
自分を心配してくれる人がいたなんて……!
パーカス・コン・ブリオ 花国 鶴 @hanaguni96
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