第10話 エピローグ

 飯縄いいづな大学付属中学校の花壇。

 チューリップの花に、ジョウロで水がかけられている。昼休みだった。運動場へと向かって駆けていく獣人の少年と妖精の少女。二階の窓では、フライングボードに乗ってコンビニから帰ってきた少年たちが、教師にこっぴどく怒られている。


「さくら」


 声を駆けられて、さくらは振り返った。

 名前の通り桜色の髪に、丸い愛嬌のある目。背は低く、紺色のワンピース型の制服がよく似合っていた。ジョウロを止めて、さくらは友人と話している。

 ふいに、へ目を向けた。


「どうしたの?」

「……ううん。誰かに見られていた気がして」

「え、へ、変質者的なこと?」

「そうじゃなくって、監視、でもなくて、見守ってくれてる、みたいな」


 さくらの視線の先には、雲が薄く伸び、陽気の暖かな春の空があった。


「それよりさ、午後の魔法授業の準備できてる?」

「できてるって言うか、いつの間にかタクトがあったんだよね」

「契約しないと、タクトってないものなんでしょ?」

「うん。でも、家の皆も知らないって言うし、試してもいいかなって」


 ジョウロを置いて、玄関で靴を脱ぎ、さくらは呟いた。


「黒い月が描かれたタクトでね……」


 昼休みの予鈴が鳴った。生徒たちが一斉に教室へ向かう。


「急ごう、さくら!」


 さくらはちらりと、またを見た。その唇が動く。『あなたは――』。教室へ急ぐ生徒が、さくらの前をふさいだ。友人がさくらを再度急かす。


 さくらはもう一度、を見た。


「あなたは――だれ?」

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誰が魔法少女を監視するのか 甚平 @Zinbei_55

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