第13話 馬を選ぶ。

 フリッツにイルハン連合王国の調査を依頼された私は旅に必要な馬を選ぶことになった。ハルムート家は騎馬民族であるバトゥ族にルーツがあるのでその厩舎にいる馬たちは名馬揃いであった。

 厩舎にる馬たちは皆そろいもそろって毛色のいい、いかにもたくましく頭の良さそうな馬たちばかりだった。

 私は適当な馬を選んでのろうとしたが、その馬は微動だにしない。

 厩舎の使用人が手綱をどんなにひっぱっても馬は嫌がり、厩舎から一歩も出ようとしない。


「おかしいなあ」

 と厩舎の使用人は首をかしげる。

 それは他の馬も同様だった。

 私がその馬の前にたつと、馬は微動だしない。

 憎むような恐れるようなそんな瞳で馬たちは私を見ている。


 どうして馬たちはそんなに私を恐れるのだろうか。

 疑問に思った私は特技スキル動物の声で彼らの声を聞いてみた。


 恐ろしい。

 怖い。

 近寄るな。

 ここから立ち去れ、死の臭いをまとうものよ。


 馬たちは口々にそう言っている。

 感のいい彼らは私の正体をゾンビ、すなわちアンデッドとみぬいているのだろう。

 死の臭いをまとう私を彼らは忌避しているのだ。

 しかし、馬がいないと長旅は面倒だな。イルハン連合王国内を徒歩で移動しなければいけなくなる。荷物なども持ち歩かなくてはいけないので、疲れはしないが、面倒なのは確実だ。それに旅をともにする予定のアルメンドラになんと言おうか。

 もしかすると旅の荷物はアルメンドラの馬車に乗せてもらえるかもしれないが、イルハン連合王国内自由度はかなり下がる。

 フリッツに頼まれた情報収集がやりづらくなるのは確実だ。

 だが、それもしかたないだろう。

 私があきらめかけていたそのとき、一匹巨大な黒馬が私に声をかけてきた。


「ふはははっ。並のものならお主のその死の臭いは嫌われてしかたたないのう」

 低い声で笑いながら、その黒馬は言う。

 並の体躯ではない。

 普通の馬の二倍はありそうだ。

 筋骨たくましい巨馬であった。

 漆黒の毛並みが美しい。


「私を見ても恐れぬのか」

 私は巨馬の黒い瞳を見る。


「ふむ、正直いうと貴様の死の臭いは嫌ではある。だが、貴様ならば私をのりこなせるかもしれぬ」

 ぶるるっと鼻をならして、その黒馬は言う。


「その馬はやめたほうがいいですよ。レオニダスに乗ろうとして何人も落馬して、命をおとしたものもいるのです」

 心配そうに厩舎の使用人は言う。


 面白いと私は思った。

 こんなところで落馬死するようならば、私はそれまでだ。どうせ一度は死んでフランケンシュタイン博士によって生き返らせてもらったのだ。まあ生き返ったというのはちょっと違うか。でもこんなところで死ぬようならフランケンシュタイン博士を楽しませることなどできないだろう。


 レオニダスに鞍を乗せて、私はまたがる。

 漆黒の巨馬は馬場をかけまわる。

 これはすごい。

 風が頬をかけぬけていくのが心地よい。

 巨馬は力強く大地をける。

 足音までも巨大だった。

 馬場を抜けて、私は近くの草原をかける。

 レオニダスは赤い汗をかいていた。

 赤い汗をかく馬は名馬の証だとアレンは言っていた。

 遠くのほうで教会の鐘がなっていた。

 レオニダスに乗る少し前に鐘がなっていたので二時間近く走ってことになる。どうやら私は落馬死せずにすんだようだ。

 私は赤い汗を流すレオニダスの首をなでる。

「どうだ、久しぶりに全力で走った気分は?」

 私はきく。

「ふむ、心地よかったぞ。これからも我にのるがいい。貴様をどこまでも連れて行ってやろう」

 レオニダスは言った。


 イルハン連合王国に旅するための馬は汗血馬レオニダスに決まった。

 数日後、私はアルメンドラの商隊と合流し南に旅立つことになった。

 ミラの頼みでクリスが従者として私と旅をすることになった。

 クリスには世の中のことをもっと見せたいとミラは言った。

 フリッツからドラゴンがデザインされたメダルを与えられた。

 これはハルムート家に連なるものという証明書のようなものだという。

 このときから私は正式にリンド子爵家の家臣からハルムート家の家臣、しかも将という扱いになった。あたえられた役職は巡行使カルナーであった。


「さあ、いざイルハン連合王国へ」

 微笑みながら、アルメンドラは言った。

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ゾンビになった私はスキル"悪食"で成り上がる‼️ 白鷺雨月 @sirasagiugethu

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