第12話アルメンドラの話を聞く。
黒い肌をした豊かな体をもつ美女は語る。
彼女はイルハン連合王国からさらに南にあるバルカン海を越えてやってきたという。
「連合王国は今は二つの勢力にわかれて内乱状態にあるんだよ」
アルメンドラもカフィを注文する。それに高級品である砂糖を溶きいれて一口飲む。
なるほど、そのような飲み方もあるのか。
カフィとは奥深いものだ。
アルメンドラの話ではイルハン連合王国は跡目争いで内乱状態にあるという。すなわち王子派のフラグ族と王弟派のキタン族とである。内乱状態にあるため、その治安は驚くほど悪く、商隊を率いてこのドラゴムにやって来るのは至難であったという。
「どっちでもいいから内乱がはやくおさまってくれないとこっちとしても商売あがったりなんだよね」
さらにカフィに口をつけて、彼女は言う。
要約するとアルメンドラがこのドラゴムでトゥラン王国の産物を売るためには中継地であるイルハン連合王国の安全と平和が必要だということか。
イルハン連合王国を無事に通過できないとこのカフィがもたらされることはない。
そうなるとこのカフィが飲めなくなる。
それは避けたいことがらだ。
このカフィの味を知ってしまった以上、私はこれが飲めなくなることをどうにかして防ぎたいと思うようになっていた。
ということはどうにかして心配なくアルメンドラの商隊がイルハン連合王国を通過できるようにしなくてはいけない。
すべてはこのカフィが飲めなくなることを防ぐためにである。
しかしそれはどうすればいいのだろうか?
アレンにでも相談したほうがいいのだろうか。
「それとこれは私らの親愛の証だよ、受け取って欲しい」
そう言い、アルメンドラは小さな袋を机の上に置く。
私はその袋の中身をのぞくように見る。
そこには小さな種がいくつもつめられていた。
「これは
アルメンドラは言う。
審美眼の特技を使いこれを見る。この種がかなりの高級品だというのがわかる。これほどのものを贈り物にするのだから、アルメンドラはいかほどイルハン連合王国の治安悪化に困り果てているかがみてとれる。
ここでこの話を無下に断れば、アルメンドラはドラゴムで商売することをあきらめるだろう。そうするとカフィがのめなくなる。
やはりこの話はなんとしても成し遂げないといけない。
「わかった、どうにかしてみよう」
私はその甜菜の種子を受け取り、そう約束してしまった。
それから私たちはこっそりとフリッツとリオーナの結婚式に戻る。式はもう終わりかけていた。
私の姿を見つけたアレンが声をかける。
「どこにいっていたんだ?」
「まあ少しな……」
私は言葉をにごす。
式は滞りなく終わる。
その後は一晩中宴会となり、騒がしい夜が明けるのであった。
式が終わってからは一週間ほどは忙しい日が続く。王国政府からも祝いの使者がやって来てその応接をしなければいけない。やっと終わったと思えば今度は神聖帝国からの外交官がやって来る。さらにそれが終わったらあらゆる国の商人たちが面会を求めてくる。まさに体がいくつあっても足らない忙しさだ。
どうにかして時間を見つけた私はアレンにアルメンドラから聞いた話をする。
「たしかに南の連合王国は政情が不安だと聞いている」
アレンは言った。
「連合王国の治安悪化はまわりまわってこの辺境伯爵領の不利益につながる。これは一度かの国の情勢を見にいかないといけないな」
アレンは言う。そしてそれをフリッツに進言する。
「たしかにアレンの言う通り、イルハン連合王国の政情不安は我がドラゴムの不利益に違いない。これは信頼のおける人物にかの国の情報を集めてもらい、何かしらの対応策をとらないといけませんね」
熱いカフィをすすり、フリッツはそう言った。酒が苦手なフリッツはこのカフィを気に入っていた。さらに私が手に入れた甜菜の種子を見て、いたく喜んだ。
そしてイルハン連合王国の情報収集の役目を私が担うことになった。
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