第5話 その他の禁止事項



 出版業界でやっちゃいけない事項を、例文つきであげてきました。


 ほかにも、これはしないでねってのが、たくさんあります。『つまりを使わない』『彼、彼女、使わない』『あれ、これ、それ、どの、その(こそあど言葉)使わない』など。多用すると、あいまいでわかりにくくなるからでしょうね。極力ひかえましょう。

 オウム返しさせない、とか、あたりまえのことをいちいち書かないってのもあります。


 これら、例の公募ガイドの特集で読んだ内容です。お金払って添削してもらったかたのエッセイ読むまで、すっかり忘れてたんですよ。それで自作を読み返してみたら、「あらま、いろいろ、かましてるよ」今後、見直しが必要です。


 あたりまえのことを書かないっていうのはなんだ、って思いますよね?



 例文1(修正前)

「大変だ! 〇〇が救急車でA病院に運ばれたって!」

「救急車で運ばれるなんて、重病か大けがだぞ。何があったんだ?」



 はい。この『救急車で運ばれるなんて、重病か大けがだぞ。』の部分ですね。そんなの、わざわざ書かなくてもわかるよって話です。救急車=緊急と誰だって考えますから。



 例文1(修正後)

「大変だ! 〇〇が救急車でA病院に運ばれたって!」

「何があったんだ?」



 これで充分なんです。丁寧に書こうとして、ついやってしまいがちなミス。

 もしも、どうしても心配で慌てふためくさまをセリフで表現したいなら、こう書いたほうがマシ。



 例文1(修正2案)

「大変だ! 〇〇が救急車でA病院に運ばれたって!」

「何があったんだ? まさか、死んでないよな? 助かるよなっ?」



 これなら、説明くさい情報ではなく、キャラの心情描写になってます。


 とくに、描写をしっかりしないといけないと考える中級の人。地の文すべてがキャラの行動描写になってしまってる。そのほとんどは、いちいち書かなくてもわかることです。動作は戦闘シーンとか、動きが重要な部分だけ丁寧に書けばいい。それより心情描写と、情景描写をしよう。



 例文2(修正前)

 Aが僕のほうをふりむきながら、ちょっとだけ首をかしげた。長袖をまくりあげつつ、ペロリと舌を出す。

「そのときになってみないと、どうしたいかなんてわかんないよ」と、口のなかでモゴモゴ、Aはつぶやく。



 これも、で、けっきょく、何が言いたいん? って感じですよね。

 細かい挙動は読者の想像で補ってもらえばいいんです。マンガやアニメは絵で表現できるけど……というか、心情をモノローグか仕草でしか表現できない。でも、小説には地の文ってもんがあるんで。

 むしろ、行動描写は大事なものだけピックアップしたほうが、ストーリーもスイスイ進むし、伝えたいのはなんなのか、読者にもわかりやすい。



 例文2(修正後)

 Aは落ちつかない仕草で、僕をふりかえる。

「そのときになってみないと、どうしたいかなんてわかんないよ」

 自信なさげに、つぶやいた。



 行動描写から心理描写に切りかえました。視点は『僕』なので、僕から見たAの心情ですよね。落ちつかなく、自信もなさそう。Aは不安なんだなと読者にもわかる。

 修正前のパターンだと、Aの挙動はわかるけど、なぜそういう行動をとるのか伝わってこない。ただ変な行動をとってるなってだけ。これらはいちいち書かなくてもいい文章になります。

 地の文増やそうと努力し始めた人は要注意です。書かないといけないのは、その描写じゃない。



 ちなみに、これを前回の隠喩で表現したら、どうなるんですかね? ライト文芸っぽくしようとすれば、もっとこねまわした文章のほうが詩的でいいんでしょう。



 例文2(隠喩)

 ふりかえったAは、泣きそうな目のチワワだ。うちのショコラのほうが、まだ落ちついてる。

「そのときになってみないと、どうしたいかなんてわかんないよ」

 つぶやきは風に消えた。



 こんな感じ? なんか、とたんに青春物になった!

 妙に気恥ずかしい……。


 まあ、不必要なことをいちいち書くなってのは、こんなところです。

 前回も書きましたが、推敲はとにかく、ムダを削る作業ですので。なくても意味通じるなってものは、どんどんカットしましょう。


 オウム返しさせないは、ラノベならやってもいいと思います。とくに、会話が楽しいほのぼの日常系なら、あえてオウム返しさせたほうが、変な間ができて味になるし。文芸やミステリーでは、たしかにジャマかも。



 例文3(ラノベ風)

「おーい、今度の遠足、鞍馬山だよな?」

「鞍馬山?」

「えっ? 違ったっけ?」

「……って、どこ?」

「……」

「……」

「どこ?」

「おま、それでも京都人かぁー!」



 みたいな会話劇。

 マンガで言えば、

「……」「……」の部分で、ちびキャラが見つめあう。なんなら頭上をカラスが飛んでく。カァ。そんな絵すら見える。ラノベなら、アリ。あえて直す必要なし。



 例文3(ミステリー風)

「知ってるか? 今度の遠足、鞍馬山だって」

 友人Aの表情がひきしまる。

「なっ! この前、死体が見つかった場所じゃないか」

「タイムリーだろ。調べに行くよな?」

「もちろん!」



 短い会話のなかでドキドキ感。死体が見つかった、事件が起こってるっていう状況説明にもなってる。さらに言えば、この二人はきっとミステリークラブの所属者。または推理小説マニアの親友と察しがつく。ミステリーでは情報を的確に出さないと。



 例文3(ライト文芸風?)

 あいかわらず、Aはふわふわの綿毛だ。理解しがたい宇宙人。いや、うさぎとか、猫とか、そんなもの。

「今度の遠足、鞍馬山なんだってな」

 へぇ、鞍馬山ってどこ、なんて、予想外の答えが返ってきた。

 ふわふわ人種に説明してやるのはめんどいな。でも、なぜか、時間のムダとは思わないんだ。おれ、小動物、キライじゃないから。



 ああっ、今度は青春BL風になってしまったー!

 まあ、ジャンルによって文体を使いわけてもいいですね。


 ところで、以前、カクヨムのエッセイか創作論で「自分は書くのが早い、なんて言ってるヤツは何も考えてないだけ。しっかり練って正しい文章を書くには、ものすごい時間がかかる」というのを読んだことがあります。タイトルがすっごく攻撃的だったので、ちょっと気になってチラ見したんですが、ここだけ読んで、僕には必要ないなと思いました。


 なぜなら、『ちゃんと考える』のは、推敲のときにすればいいから。


 以前から言ってますが、僕はパンツァーです。書きながら構成する。

 なので、とにかく、最初はストーリー展開を書く。変な文章でもなんでもいいから、まず書く。筆が乗ってるうちじゃないと、プロットはおりてこない。

 スマホでぶっつけ本番。カクヨムの編集画面に直フリック!


 で、そののち、あらためて推敲。ここまでにやってきたような修正をくりかえす。文章はあとでいくらでも手をくわえられますので。


 人それぞれ、やりやすい方法ってあるでしょう。プロッターさんはじっくり文章編みながらのほうが書きやすいかもしれないし。自分にあった方法を見つけましょう。


 あと、推敲について書きたいことは……?

 まず基本のとこで書いちゃったけど、推敲は誤字脱字など、文章の細かい直しだけではありません。構成や情報の出しかた、整合性などから、文脈を変えたり、移動させたり、作品全体を俯瞰ふかんするのも大事です。


 これ、よく聞くと思います。日を置いてから見直すと、誤字や失敗を見つけやすい——


 一理ありますよね。

 書きおわってすぐは物語に入れこんでるので、冷静に見れてなかったりする。年単位で置くと、自作を第三者の目で見ることができるので、たまにやってみるといいですよ。


 いかがでしたでしょうか?

 今回は推敲に特化して、『ロイヤルティで稼ごう』とは別仕立てにしました。

 これらは、あくまで僕のやりかたです。参考になればいいなと、そのていどに思ってください。




 2023/02/05


 追記

 カクヨムの豆知識から、ロイヤルティについて、小説作法、その他雑感まで、興味のあるかたはこちらもどうぞ。実践的なハウツー本ですね。

『カクヨムロイヤルティでお小遣いを稼ごう〜ついでに小説うまくなろう〜』

 https://kakuyomu.jp/works/1177354055363788455


 ていうか、五話完結のつもりだったけど、書きもらしがありました。あと二回続きます……ゲフッ。

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