第69話 【番外編】それぞれのバレンタインー2
「もう、嫌になるなあ」
綾子は自室のベッドに横になった。
意外と物が少なく、すっきりとした印象を受ける部屋だ。
「にいさんが帰って来てくれれば、全部解決するのに・・・」
ぼんやりとしていると、スマホにメッセージが届いた。
「あれ?ハルちゃんだ。なんだろう」
『今週末の土曜日、
******
「ハルちゃん、お待たせ。
時間より10分早く来たんだけど、間違えてた?」
改札を抜けて、待ち合わせ場所に着くとすでにハルカが立っていた。
オールセインツの黒のノーカラージャケット、インナーはユニクロの黒のハイネックニット、H&Mの濃紺のスキニーなデニム、靴はドクターマーチンだ。
なかなかの戦闘態勢だ。
「アヤ。おはよう。
私が早く着いただけだから大丈夫よ」
到着した綾子に気づくと、挨拶もそこそこに服装をチェックする。
綾子の服装は、ステュディオスのライダースジャケットの上にジャーナルスタンダードのベージュのトレンチコートを羽織っている。インナーはジーナシスのニット、シップスのデニムパンツ、靴はコンバースのレザーのオールスターと、こちらも気合が入っている。
「大丈夫そうね。行くわよ。アヤ」
「うん。頑張ろう。ハルちゃん」
ふたりは頷き合うと、『バレンタイン催事会場はこちら』という看板をくぐり、
******
3時間後、駅に程近い喫茶店に、たくさんの小さいショッパーを抱えたハルカと綾子の姿があった。
和をコンセプトにしたという店内は木目調のログハウスの様な作りで、暖かな雰囲気で二人を迎えてくれた。
アウターをやっとのことで脱ぐと、空いている席に置いた。
「やっぱり、戦場だったわね」
「本当。疲れたー」
「お腹は?」
「空いたー」
「すっかりティータイムになっちゃったわね・・・。
食事頼んでも大丈夫かしら」
水を持ってきてくれた女性スタッフに尋ねると、パスタでよければという回答だった。
「私、玉ねぎとベーコンのアマトリチャーナ、と、ティラミス。
飲み物はマンダリングレープフルーツティをアイスで。アヤは?」
「キャベツとアンチョビのペペロンチーノと自家製のクリームブリュレにします。
飲み物はサニーアイランドを、私もアイスでお願いします」
先にドリンクを持って来てくれたので、一息ついた。
「アヤ、だいたい買えた?」
「うん。
ピエール・エルメでしょ、ジャン=ポール・エヴァン、あ、ラ・メゾン・デュ・ショコラも買えた。
他にも色々買えたよ。
でも、パティスリーアサコイワヤナギが買えなかったー」
「私もピエール・マルコリーニやゴディバ、あと、パティスリージュンウジタとか他にもたくさん買っちゃった・・・。
しばらくはもやし生活ね」
「ふふ。今日は誘ってくれてありがとう」
綾子がハルカにお辞儀をすると、ハルカが照れて笑った。
「私は『か弱い』からお供が欲しかったの」
「そういうことにしておくね」
パスタが来た。
「もーお腹すいた!」
「とりあえず、いただきます!」
よほどお腹が空いていたのか、口数も少なく食べきってしまった。
「美味しかった・・・」
「ここに入って正解だったわねー」
すでに空になっていたグラスと空いた皿が下げられ、デザートが提供された。
紅茶の種類が豊富な店だが、あまり冒険する気にもなれない。
先ほどの女性スタッフに聞くとダージリンを薦められたので、二人ともホットのダージリンにした。
大きめのティーポットに、二人分を合わせてサービスしてくれた。
「アヤは会社の分も買ったの?」
「今日のは自分用!」
「私もよ!
で、会社用はどうしたの?」
「私のところは先輩が取りまとめてくれて、ガレーのチョコレートバーを女性社員全員からって渡すの。
ネットで買ってるみたいだけど、二十四本入りで四千円くらいなんだって。
みんなでお金を集めてまとめて買って、男性社員にはバラで渡す予定みたい。
ハルちゃんのところは?」
「アヤの勤めてる会社、大きいし人数も多いもんね。
私のところも同じような感じかしら。
お金集めて、ネットで買ってるのだけれど、こんなのあるのよ」
スマホで何か検索していたが、画面を見せてくれた。
『金吾堂製菓ハートのおせんべい、バレンタイン用個包装70枚』と書かれている。
「私のところ、甘いもの苦手なおじさんが多いから、このお煎餅とゴディバのシグネーチャータワーっていうチョコをセットで少しずつ配る予定。
相手によってはチロルチョコでも勿体無いと思うけどって、あれ?」
「どうかしたの?」
「会社にパワハラ・セクハラ野郎がいるんだけど、最近なんか大人しいのよ。
私のことを見ると妙に避けるようになったし。
何かあったのかしら」
「そうなんだ。
でも、絡まれなくなったのなら、良かったね」
「ふふ」
少し疲れた様子だが明るい綾子を見て、ハルカが笑みをこぼした。
「何?どうしたの?」
綾子が尋ねた。
「2年前に初めて会ったときから考えると、随分元気になったなって思って。
もう、いつ会っても元気なくて心配してたのに、いつの間にかね。
本当に最初なんて、ボロボロなのに必死で棘を突き出すハリネズミみたいだったわ」
「ハルちゃんだって、マコトさんの浮気相手は誰だ!ってすごい剣幕で乗り込んできた癖に。
ビックリしちゃった。
でも、こんなに仲良くなれるとは思わなかった。
あの頃は、マスコミの人とか、よくわからない霊能力者とか、ウチの財産目当ての遠縁の親戚とかいっぱいきてて、昔から仲が良かった人以外は、誰も信用できなかったの」
「だって、マコが中途半端に隠すから心配だったのよ・・・。
でも、アヤのことはその前から聞いていたのよ?
妹みたいに可愛がってる女の子がいるんだって」
「そっか。そんなこと言ってたんだ。
マコトさんは・・うん。従兄弟のチャラいお兄ちゃんって感じかな」
ダージリンで喉を潤したハルカの眼力が強くなった。
「で、西野さんの分は買ったの?
もしかして、手作り?」
「やだ、もう。手作りはしないよ。
あっくんはダイエット中だから、ピエール・エルメのアソリュティマン ド ショコラの5個入りのにしたの。
パッケージもフランスの人気イラストレーター、ソレダッド・ブラヴィが描いていて可愛いんだよ。
あっくん、甘いもの大好きだから、ほっとくといっぱい食べちゃうし」
「ダイエットねえ。
年末に一度お会いしたけど、別に太ってる感じとかしなかったけど?」
「年末は79キロまで落ちたから。
でも、お正月が明けたら82キロになってて。
今は80キロまで戻したの。
あっくんの場合、健康体重が75キロくらいみたいだから、それ目指してるみたい」
「ふ〜ん。よおくご存じなのねえ。
で、お正月以降、何か進展はあったの?」
「あっくんは、うん・・・。
私たちのことを一番に考えてくれているから、今はこれでいいの」
「・・・そう。まあ、深くは聞かないわ。
西野さんは誠実そうな人だと思うけどちょっと頼りない気がしたから、何かあったらすぐに私に言うのよ?」
「ハルちゃん、いつもありがとう」
「あ、このティラミス美味しいわよ」
「またごまかす。でも、こっちのクリームブリュレも美味しい」
綾子がクリームブリュレを食べて満面の笑みをこぼしていると、ハルカが尋ねた。
「それにしても、どうして彼なの?」
「うーん。なんでだろう。
小さい頃、あっくんといるとすごく安心するというか、落ち着けた思い出はあるんだ」
「うん。それで?」
「久しぶりに会った時にね、全然変わってなくて安心したの。
それで、話をしてみても全然嫌な感じしないというか。
悪い気?というか、邪念みたいなのが無いというか。
でも、うん。やっぱりよくわからないかも」
「ふふ。アヤらしいわね」
「そういえば、マコトさんの分は買ったの?」
「マコはあまり甘いものを食べないし、去年なんてたかーいショコラティエ渾身の力作をヒョイヒョイって食べて『美味かったよーご馳走様ー』だけよ!
1個五百円以上するものを!
味わって、パティシエに思いを馳せながら少しずつ食べなさい!
・・・だから、今年はこれ」
また何かサイトを見せてきた。
『銀座あけぼの、バレンタインおおきなはあと.』という煎餅だ。
「でも、マコトさんなら喜びそうだね」
「でも、あの男あやしいのよ。
この間、仕事でたまたま近くを通ったから、お店を覗いたの
そうしたら、キャバ嬢とイチャイチャしてたし、美容師の女の子ともご飯を食べたらしいわ」
「大丈夫だったの?」
「なんか、プレゼントするお酒の相談受けてたとか言ってたけど、本当かしら。
この前もね・・・」
ハルカと綾子が家路に着いたのは、すっかり辺りが暗くなってからだった。
******
ガレーのチョコミニバーは、リップスティックくらい?で小さいので、サイズにはご注意を。
後日談もちょっとだけ。
マコト「ありがとー。ハルカが俺のことを考えていてくれたってだけで嬉しいよ」
(チュー)
ハルカ(照れ)
アサヒ「うわあ。あやちゃんありがとう。本当に食べていいの?」
綾子 「1つずつ味わって食べてくださいねー」(ニコニコ)
大介・ジン「・・・」
リングフィットをプレイしていると異世界転移した勇者が訪ねてくるんだが Lemonade I scream @lemonade-ice
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