第11話 童貞が神になる道程

地球で生きていたころ、私はいたって平凡な人間だった。幼稚園から、大学を卒業するまで、一度もクラスメイトの注目を集めたり、スポーツで活躍したり、何かで表彰されることはなかったよ。かといって、勉強が全くできないわけでもなく、周りの反応を窺う術には長けていたから、学校でも、会社でも、波風立てずに上手くやってきた。子供はいなかったよ。それどころか、結婚もしなかった。別に、何か身体に不具合があったわけではないよ。むしろとても健康だった。容姿も悪くはなかったと思う、もちろん良くもなかったけどね。一クラスが五十人だとしたら、そのなかの四十人は、似たり寄ったりの見た目をしているじゃないか。いわゆるモブキャラだね。その中の一人だった。積極性はなかったかな。話し掛けられるぶんには女性とも話せるんだけど、自分から話かけることは、仕事とかで理由がなければできなかった。同じモブキャラの同級生も、多くは結婚していたから、僕が生涯独身であった理由は、一番はそこだろう。風俗にも行ったことはないよ。興味はもちろんあったけど、度胸がなかった。だから僕は、死ぬまで童貞だった。君も聞いたことがあるかもしれないけど、三十歳まで童貞だった男は、魔法使いになれるって、地球では言われているだろう。実はこの話、続きがあるんだよ。七十歳で死後にムーミン谷に生まれ変わることができ、九十歳で神に等しい存在になれる修行をはじめることができる。そして、百二十歳で、死後、神様になれる資格を得る。驚いたかい?まあ信じるのは難しいよね。無難に生きた僕は、童貞のまま百二十年を生き、死後に神様になる資格を与えられて、あの世界を創造したんだ。ちなみに、地球を創造した僕の先輩でもある神様も、もちろん童貞だよ。生前、僕の唯一の趣味は、絵を描くことだったんだ。社会人になってから、休日に時間を持て余して、イラストを描き始めた。自分好みの女の子を、描き続けた。現実では話し掛けられないから、せめてもの慰みにね。この世界の女性は、全員が可愛いだろう?百年近くも美少女を描き続けた僕が創造した世界なんだから、当然さ。男?ああ、この世界には、ほとんど男はいないよ。いても、同じ作業を繰り返す、CPUみたいな存在か、性欲の枯れた爺さんだけさ。男なんて見てもしょうがないじゃないか。君もそうだろう?君がカメラで女子ばかり撮っていたのは、知っているよ。え?女性だけだと人類が繁殖しないって?もちろん、そこはしっかり考えたよ。あの世界の住人は、男女の営みだけでなく、女性同士でも懐妊できるんだ。そういうふうに創造した。だから、極度に男女比が悪くても、人口が減ることはないんだ。でも、一つだけ懸念があってね、君も聞いただろ?僕の世界に、魔王が出現したんだ「シュワシュアパイン」と言う、ふざけた名前の魔王さ。あれは僕が創造したものではないよ。他の世界から、僕の世界を侵略しにきたんだ。犯人はわかっている。僕の幼馴染で、僕より二日先に死んだ、山田の仕業さ。彼も死後、神になる資格を与えられて、世界を創造したんだろう。しかし、彼の世界は混沌としていて、化けものばかりだった。しだいに僕の美少女だらけの世界が羨ましくなって、侵略してきたのさ。もしもの事に備えて、僕は一人だけ、逞しい男性を創っておいたんだ。一子相伝の勇者の家系、ディオ(神)の家系さ。僕の現身として、あの世界で唯一、モブではない男性だ。ところが、思わぬことが起こってしまった。君が乗り移ったディオ・エノクは、子孫を残さなかったんだ。絶えず周囲に美しい女性が何人もいたにも関わらず、不能者というわけでもないのに。彼を操って、無理やり子供を作らせることは、神様である僕でもできない。知能を持った存在を生み出した時点で、神は万能ではなくなるんだ。神の能力を分散させてしまうからね。一度生み出された「意思」というものは、全ての世界において、不可侵なんだ。地球でもそうだよ。もし自分が創造した世界に納得がいかなければ、一度全てをリセットしなくてはならない。出来ればそれはしたくないんだ。そしており悪く、勇者の家系が途絶えそうなところで、山田の生み出した化物たちが、僕の世界の侵略をはじめた。男性がほとんどいない代わりに、僕の作った世界の女性たちは、非常に強く、様々な能力を備えている。しかし、僕の分身としてチート能力を満載した勇者には、遠く及ばないけどね。異世界から侵略されないために、各々の神は自分が創造した世界に、結界を貼るもんなんだけど、僕の結界は、少しづつ山田の力によって破られ始めている。今はまだ、一人の魔王とその配下を送り込むのがせいぜいな綻びだけど、もし、僕の世界の「象徴」たるものが破壊されてしまうと、僕はあの世界の神である資格を失ってしまう。あの世界の象徴は女王なんだ。彼女が殺されてしまうことがあれば、あの世界は、山田が神として君臨することになる。そうなってしまえば、僕の張った結界は失われ、山田の世界から大量の化物が流れこむ。そうなってしまえば、僕の生み出した美少女たちは、とても酷い目にあうだろう。彼はこじれた童貞だったから、女性を物のように考えていた。地球で生きていたころ、女性に酷い目にあわされたのかもしれないね。僕はもう、神様としての力を殆ど使ってしまった。新たな勇者を作りだすには、世界を一度、リセットしなければならない。偶然、ディオ家の血筋と同等の能力をもつ存在が現れる可能性もあるけど、どれだけ先かは、わからないんだ。困った僕は、地球を創造した先輩の神様に相談したんだ。そしたら、地球から一人、こっちの世界に連れいっていいと言われたんだよ。僕の世界より、遥かに長い歴史をもつ地球人であれば、きっとこちらの世界では、凄い力を発揮するんじゃないかって。何故か子孫を残そうとしなかった、エノクの代わりとして、君の精神を拝借した。エノクの精神と交換でね。これなら、世界をリセットしなくて済む。君を選んだ理由?まあ、無難そうだったからかな。あんまり優秀な人間を連れて行くのは、先輩にも悪いし、あまり使えなさそうなのも困るし。やりちんは最低だな。リア充死すべし。もちろん、魔王を倒して、山田の軍隊を退けてくれとは言わないから、せめて、エノクの体で、子孫を残してはくれないか?新たな勇者が育つまでの十数年であれば、被害はでるだろうけど、僕の世界の女性たちは、耐え切ることができるだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

The Last White Bullet kaito-18 @kaito-18

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ