第10話 覚悟

「まあ、もう少し雰囲気ださないとね。チチンチンチン」

 

 おっさんはベットにうつ伏に寝そべると、童話にでてきそうな呪文を唱え、両腕を頭の上で交差し、腰をベットに激しく打ち付けはじめた。


「やめろ!俺のベットの上で変な動きをするな!」

 

 おっさんを引きずり下ろそうとした俺が、ベットに足を乗せた瞬間、おっさんの腰回りから眩い光が放たれた。

 

 俺はあまりの眩しさに、目をつぶり、顔の前に手をかざした。

 

 光は次第に収まっていったが、完全に夜の闇を取り戻すことはなかった。

 

 美しい寝室にいたはずなのに、汚い畳敷きのワンルームに俺はいる。


(また、違う世界だ……)

 

 俺が足元や周囲を見渡していると、さきほどのおっさんが、玄関から入ってきた。

 そしておっさんは、部屋で立ち尽くす俺の目の前まで歩いてくる。

 

 俺はわけがわからず、おっさんと見つめ合った。


「うふふ、きちゃった」

「気持ち悪いんだよよおおおおおおおおお!」

 

 首を傾げてウインクしたおじさんに、俺は渾身の右フックを叩きこんだ。


「げぶ!」

 

 呻き声を上げたおじさんが、その場に横倒しになる。

 生まれてはじめて、人に暴力を振るった。しかし、後悔はなかった。


「ひどい!さっきはあんなに激しくベットで求めてきたのに!もう私の体に飽きたのね!?」

 おっさんは頬を押さえながら、潤んだ瞳で俺を見上げる。


「とどめが必要みおたいだな」

 俺は指を鳴らし、おっさんを見下した。


「あ、待って。話をしよう話を。ほら、体も元に戻っているだろう?」

「え?」

 

 そう言われて、俺は自分の手を確認する。しわくちゃではない、高校二年生の、若い俺の手だった。


「本当だ、これって、夢なのか?」

「夢ではないよ、現実でもないがね」

 

 まあ、座りなさいと促され、俺は警戒しつつ、おじさんの前に腰をおろした。


「さて、自己紹介が遅れたね。私は君が先ほどまでいた世界の神様、旧姓は田中と申します」

「はあ、田中さん」

 

 さっきも自分のことを神様だと言っていたが、さすがに信じられない。

 確かに不思議な力で、俺をこんな汚い部屋につれてきたのは、目の前のおっさんの仕業なのだろうが。


「まあ、信じないよね。でも、本当なんだ。君が先ほどいた世界を、創造したのは僕なんだよ。その前は、君と同じように地球で人間をしていた。無難をモットーとする平凡な人間だったよ」

 

 おっさんは、懐かしむような目で俺を見た。おれは『無難』という言葉に反応した。


「無難な人間が、どうして神様になれたんですか?」

「教えてあげよう。私がどうして神になり、こうして世界を創造する神になったのかを。そして話を聞いてみて、もし良かったら、この神の願いを、叶えて欲しい」

 

 そう言って、おっさんは語り出した。過去、現在、未来、異世界においても、おっさんの話は長い。

 覚悟して聞いてほしい。


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