第9話 ベットの神様
トイレを済まして自分の寝室の前で、一つあくびをする。今日はあまりに色々なことが起こり過ぎた。はやくあの柔らかいベットで、眠りに就きたいと、ドアをひらいた。
「ぐわ!」
部屋に入った直後、俺の顔に生暖かい物体が張り付いた。
「なんだ、プカプカ、ここにいたのか」
俺は顔に張り付いた、空飛ぶアライグマをひきはがす。
「プカプカじゃないわよ!私よ!酒井美帆よ!」
「え?酒井?まさかそんな姿に?」
おれは突然しゃべりはじめたアライグマを両手でつかみ、まじまじと見つめた。
「ちょっと、そんなに見ないでよ、服着てないんだから……」
「あ、ああ、悪い」
動物の姿になっても、裸を見られて恥じらうところは、女子高生のままらしい。
「しかし、災難だな。まさか酒井が、動物になっちまうなんて」
「長友君も、けっこう悲惨だと思うよ。もうじき死んじゃいそう」
俺達はお互いの姿を改めて確認し、ため息をついた。
「なあ、酒井はどうしてこんなことになったのか、見当はついているのか?」
「まさか、わけがわからないに決まってるじゃない」
酒井は小さな羽をぱたぱたと動かしながら答える。
「掛井君も、この世界にきているみたいだよ」
「え?あいつもここにいるのか?」
やはり、春人もこの世界に飛ばされてきていたのだ。
「よかった、無事だったんだ。どこにいるのかわかっているのか?」
「うん、このお屋敷にいるよ。でも……」
「でも?」
酒井の様子から、やはり春人も、悲惨な姿になっていることを悟った。
「彼をこの屋敷で見つけたんだけど、一人じゃ声をかけれなかったんだ。明日、一緒にいきましょう」
いったい、春人はどんな姿になってしまったのであろうか。酒井が声をかけることができなかったことを考えると、そうとう悲惨な姿なのであろう。
老人とはいえ、人間の姿をしている俺は、まだましだったのかも知れない。
「遅くにごめんね、少しでも長友君に、話しておきたかったんだ。明日、これからどうするか、一緒に考えようね」
そういうと、酒井は反転して、ドアに向おうとした。
「おい、酒井、どうせならここで寝て行けばいいんじゃないか?起きたらすぐ話ができるし」
「いやよ、長友君と一緒に寝るなんて、何されるかわからないもの」
アリーチェちゃんの部屋に戻るわ、そう言って酒井は器用にドアをあけて、部屋を出て行った。
この老人が、動物を相手に何をするというのであろうか。
それでも、俺は男として見られた気がして、少し嬉しかった。
「さて、やっと寝れるか」
俺はあくびをしながら、ベットの方へ体を向けた。
「やあ、お話は終わったようだね」
ベットの上から離し掛けてくる声に、俺はうんざりした。いったい一日のうちに、どれだけ色々なことが起きるのであろうか。
もう驚いたリアクションを取る気にもならない。
「どけよ、そこは俺のベットだ」
ベットの上で胡坐をかいている、お腹のでっぱた冴えない禿げたおっさんに、おれは冷たく言った。
「ちょっと!これからがメインイベントだから!テンション上げてこ、ね!!いえー!」
ベットの上に突然現れたおっさんのテンションは高く、不快であった。
「いや、今日はもうお腹いっぱいです。お引き取りください」
「いやいやいや、まあまあ、そう言わずに、元の世界に戻る方法、知りたいだろ?」
おっさんの言葉に、俺は目を見開いた。
「どうしてそのことを知ってるんだよ?」
「知ってるよー、僕はなんでも知ってるよー、だってこの世界を創った、神様だもん」
こいつはやべぇ。長い一日の終わりに、一番やばそうなキャラが訪問してきた。できれば殴ってでもベットから降ろしたいが、この体では、取っ組み合いになったら、負けるかもしれない。
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