第5話 お屋敷

 この体格の人間がそんなことをしていたら、異常者であろう。


「もしお前の親父が英雄じゃなかったら、とっくに死刑になっているんだがな」

 

 それは、そうであろう。現実世界でも、そんな奴がいたら、いくら大物政治家の息子であっても、すぐに刑務所いきだ。

 

 そう考えたとき、俺は一つの予感に、体が震えた。

 

 もし、俺が今までの世界から転生したのであれば、大した問題はない。いや、大した問題なのだが。

 

 今までこの世界で接してきた人の反応を見る限り、俺は転生したのではなく、この体の持ち主と、入れ替わったのであろう。

 

 だとしたら、裸で街を走り、うんこを集め、馬に引きずられる変人が、今は俺の体を動かしていることになる。

 

 もしそうなら、一刻も早く、自分の体に戻らなくてはならない。


『無難』なはすの俺の人生が、跡形もなく壊されてしまう。

 

 そう思うと、俺はいてもたってもいられなくなった。しかし、戻るための方法は、全くわからない。とりあえず、彼女について行き、まずは寝る場所と食料を確保するしかないのだ。

 

 街の中央にある、大きな噴水がある十字路を右に曲がると、ほどなくして、高校の体育館ぐらいはありそうな、大きな屋敷にたどり着いた。


「すげえ」

 想像以上の大きさに、俺は驚いた。


 屋敷に入ると、入り口では四人のメイド服をきた女性が、俺を出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ、ご主人さま」

 四人は口を揃え、俺に頭を下げた。


「こ、これは」

 背後で扉がしまる音がする。


「ご、ご主人様?」

「はい、カイン様が亡くなった後、この屋敷を継ぐお坊ちゃまが、今後は私達のご主人さまです」

 

 スラリとした、眼鏡をかけた女性が、俺の前に進んできた。彼女のメイド服は腰までスリットが入っており、歩く度に太ももが露わになる。


「たいへん、ご主人様、衣服が汚れております。カエデ、あなたがいながら、どういうことです!?」

 

 彼女はおれの衣服が汚れているのを見て、背後の少女を叱った。


「はいはい、申し訳ございません、アウローラさま。途中でカプカプに襲われたんだよ」

「未熟です。ご主人様に獣の返り血を浴びせてしまうなんて、あとで反省部屋へ来なさい」

「チッ……わかったよ」

 

 やっと少女の名前を知ることができたと思うと同時に、このアウローラという人物の厳しい言葉に、俺は慌てて口を挟んだ、


「いや、彼女は俺を命懸けで助けてくれたんだ。反省部屋なんてそんな」

 アウローラは俺を見ると、まるで慈母のように優しい表情を浮かべた。


「まあ、おぼ、ご主人様がメイドを庇うようなお気づかいを。御父上さまが亡くなって、この屋敷の当主としての自覚が芽生えたのですね」

 

 そう言って、アウローラは優しく、両手で俺の頬を撫でる。ご主人様と呼んではいても、どうやらまだまだ子供だと思っているのか。

 

 しかし、その優しくなぞるような手つきと、妖艶さを感じる美しい微笑み、むせかえるような甘い香りが、俺の五感と股間を刺激する。淡いブラウンの髪が、照明の光を反射し、キラキラと輝くのを、おれはうっとりと見つめた。


「しかし、この屋敷に勤める者達の教育は、このアウローラの役目です。いかにご主人さまの命令でも、見過ごすわけにはまいりません」

「でも……」

「いいよ、気にすんな」

 そう言って、カエデはそっぽを向いた。


「では、キアーラ、ご主人様の入浴の準備を」

「……」

 

 褐色の肌色をした、青いショートヘアの少女が、俺の前に立ち、ついてくるようにと、無言で俺を促す。

 

 彼女に従って歩き出そうとしたとき、俺の顔に突然、生暖かい何かが張り付いた。

「あ、こら!プカプカ、だめだよ!」


 五人の中で、一番小さな少女が大声をだした。

俺は顔に張り付いたものを、両手で引きはがす。


「なんだ?この妙な生き物?」


 どうやら、アライグマらしい、しかし、背中には羽が生えており、手を離すとその場に浮かび、再び俺の顔に張り付いてきた。


「すごーい、ご主人様、プカプカにもうなつかれてる」

 少女は赤い髪をツインテールに結び、大きな黄色いリボンを揺らしながら、大喜びであった。


「まったく、アリーチェが変な生き物ひろってくるから、ご主人が迷惑してるだろ、ほら、ちゃんと抱いてろ」

「うん、でもサーラも昼間、変な馬を連れてきたじゃない」

 

 俺の顔からプカプカを引きはがすと、サーラと呼ばれたメイドは、それをアリーチェに渡した。しかし、プカプカはなおも、俺の方へ向かおうともがいている。


「ご主人、相変わらず動物には好かれるな。俺も今日珍しい馬を見付けたんだ、当主になったお祝いに、あとでくれてやるよ」

 

 アリーチェと同じ赤い髪いロングヘア―をした、サーラと呼ばれた少女は、屈託のない笑顔で俺にそう言った。

 

 愛らしい笑顔を浮かべる顔の下には、委員長にも劣らない大きな果実が実っている。どうやらボタンがしまらないらしく、胸の谷間が、はっきりと見えた。


「変な馬?」

 俺はせわしなく彼女の顔と胸を交互に見ながら、聞き返した。


「まあ、とりあえず、風呂に入ってきなよ」

 

 そう促され、静かにやり取りを見守っていたキアーラの後について、俺は浴場へと向かった。

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