第4話 前世の記憶④

 最短ルートを魔術を駆使して通って、馬車で五日で着くところを一日で着いた。


 王都に着くと真っ先に王城へ向かったが、門前払いをくらった。

 だが、これは予想できていたことなので、さっそく次の行動に移る。

 正式に通れないのなら、侵入すれば良い。


 認識阻害の魔術をかけると、かけられたものが認識出来なくなる。見えてはいるのだか、それを『何』なのかが分からなくなるのだ。

 下手な術者がすると、『何』かは分からなくても見えてはいるので、「何だ、あの物体は!?」となるのだが、もちろんそんなヘマはしない。

 ちなみに、不可視魔術という見えなくする魔術も使えるのだが、魔力の消費量が多いので長時間使えない。何より、例えば不可視魔術をかけた状態でドアを開けると、ドアが勝手に空いたように見える、というように動かしたものは見えてしまうからだ。

 認識阻害魔術を自分にかけ、堂々と城に潜入した。

 まあ、城の見取り図など知らないので、片っ端から捜すしかなかったのだが。


 それにしても騎士が少ない。門にいた騎士以外二、三人しか見ていないのだ。

 何か嫌な予感がする。杞憂であれば良いが……早くアルトを見つけよう。


 下の階から上がって行って、もう残りは最上階──王族の使う私室しかない。

 王族の中で一番怪しい王の部屋に入る。


 そこは、発展したとは言え、まだまだ貧乏なうちの領主館とは比べ物にならないくらい広い部屋だった。

 隠し扉がないか探そうとしていると、複数人の歩く音が聞こえた。認識阻害魔術を使っているので、堂々と様子を伺っていると、この部屋に一人だけ入ってきた。

 その男は我が物顔で部屋を闊歩し──推測するにこの部屋の主、つまりは国王のようだ──、飾っていた巨大な絵画の前に立つと手をおいた。


 すると、奥に小さな部屋が現れた。男はそこに入っていく。

 私も男を追いかけてその部屋に入ると梯子が吊り下げられていた。


 なるほど、上か。王は一番上にいるというのが常識であるのを逆手にして、更に上に隠し部屋を作ったのだろう。もしもこの空間に気がついても上に何かがあるとは思わないからな。この城を作った数代前の国王はなかなかの切れ者だったらしい。

 ──もっとも、梯子などがあるせいで、それも無意味だが。


 それはともかく、私も上に上がると、やはりと言うべきかアルトが牢の中で鎖に繋がれていた。

 しかし様子が変だ。あの程度の拘束、アルトなら魔術で簡単に解けるはずなのに黙って拘束されるだなんて。


「なんだ。居るではないか。あの者、嘘を申しよったな」

 王はアルトを確認して独り呟くと、こちらに振り返り


 私が見えるはずがないので、何に驚いているのかと警戒していると、叫んだ。


「誰ぞ、曲者じゃ!」


 するとすぐに騎士が集まり始めた。

 隠し部屋の存在を他者に教えるなんて頭悪いな、なんて思っていると、騎士たちは明らかに私を囲んでくる。


「私が……、見えている?」

「お前、もしや魔術師だな!? ふはは、残念だったな。儂にはこれがある!」

「……っ!」


 どこか芝居がかった仕草で王が指を指す。その先には、見覚えのある小さな箱があった。

 それは、今試験されている新たな魔力の使い道、『魔道具』──魔術を物に込めたもの──だった。

 私が見えていることから恐らく、魔力無効の効果があるのだろう。


 今、魔道具が開発されている所はコーフェンタル伯爵領──つまりは私達の領地しかない。他の場所では魔道具どころか魔術でさえ未発達な状態だ。

 ……それが意味することはつまり、裏切り者が領の内部、それもそれなりに立場がある者にいるということだ。

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永年忠誠物語~転移先は前世の世界でした!?~ 水蓮 @lotus_62

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