第3話 前世の記憶③
仕えてから五年が経った。
セアラとアルトとは、仕事時間外は名前を呼び捨てにするくらいに親しくなった。
領はかなり発展し、各国から迫害されている魔力持ちが集まって、魔力についての研究が進んだ。
魔力持ちは稀だと言われていたが、隠していただけで、少ないが“稀”と言う程ではなく10000人に1人くらいはいるようだ。
この領で魔力持ちの有用性が判明してから、各国で研究されるようになった。
しかし、魔力持ちは今まで迫害してきた人達の掌返しに信じることができず、誰も魔力持ちだとは名乗り出ない。
すると、この領の情報を得ようと、間諜が送られてくるようになった。
私の仕事もそれらを排除するために暗殺者まがいの内容が増えたが、これはこれでやりがいがある。
研究で分かったことは、まず、魔力の保有量に違いがあること。
この領で調べると一番多いのがアルト、次点でセアラだった。
だいぶ差が空いたが、その次に私とセアラの侍女のエイダが同率だった。
ちなみに、魔力量を調べる方法は、ただひたすらに一定量の魔力を限界まで放出する。そして、どれだけ放出したかで測るのだ。
これが、しんどい。魔力量が多い程放出する時間が長いので、それなりに多めの者たちは測定が終わった後、ぐったりしていた。
次に魔力の色。魔力の色は、研究者曰く「魔力を可視化させるときに発する色が千差万別で、人によって異なるのです」らしい。
「魔力が可視化する」とは、魔力持ちが殺気立つと、オーラのように魔力を纏う状態を指す。また、魔法や魔術を使った後に残る魔力痕もこの色で見えるそうだ。
色は人によって異なるので、魔力痕の色を調べると誰の魔力かが分かるようになった。
後、なぜかは不明だが、魔力の色は瞳に現れるらしい。
魔力を持たない人はそのまま親から受け継がれるのに、魔力持ちは魔力の色が瞳に現れるそうだ。
私の瞳は
両親との不仲の原因でもあったこの瞳は、私も両親どころか村全体でもこんな色を持つ人はいないのにどこからこんな色になったんだろうとは思っていたけど、こんな形で疑問が解決されるとは思わなかった。
しかし、髪は関係が無いらしい。瞳の色の理由は分かったが、白銀の髪の理由はまだ謎だ。
セアラの紫は
後は、魔力の使い方。
今までは、魔力持ちの居場所などどこにも無かったから、魔力なんて使わなかったが、いざ使おうとしても魔力の使い方なんて誰も分からなかった。
現在発見されたのは、三つの使い方だ。
一つ目は、『魔法』と名付けられた。
これは魔力をどう使うのか理解していなくても、強く願えば使える。
ただ欠点もあり、単純なものしか使えないことと、魔力の消費量が莫大なことだ。
例えば水を出すとすると、水の量や温度は指定出来ずに、魔力は二つ目の方法『魔術』の五倍以上使う。……要は、効率が悪いのだ。
二つ目の『魔術』は、魔力をどう使うかを術式で制御して魔力を自分の意志で操る方法。こちらは、原理を理解していないと扱えない。
しかし、原理さえ分かれば自由に魔術を作れる。
だから、魔力を使う原理を領の人達に教えるために学校を建設中だ。
そして三つ目は、まだ検証の段階だが、魔術を物に込める『魔道具』。
一番の難所であった魔力を貯められないという問題もこの前解決し、そろそろ完成が近付いている。
∗∗∗∗
充実した日々が続いたある日、国王から書状が届いた。
内容は要約すると、アルトに王城来い、といったものだった。
仮にも国王からの命令だ。断る権利はない。
アルトは嫌がっていたが、セアラに励まされ、今日の朝から出発した。
この領は領主と領民の距離が近い。だから領主の不在は誰もが知っていることだ。
それゆえこの領では、
「なーによ、都合の良い。この領が発展する前は魔力持ちの人権なんて無いに等しい扱いだったくせに」
「王は何の為に呼び出したのかしら」
「領主様が変なことに巻き込まれなければ良いんだが……」
というように国への不満や怒り、不安の声が大きい。
一週間が過ぎ、二週間、三週間……、アルトが帰って来ないまま1ヶ月が過ぎた。
王城までは遠いとはいえ、五日もあれば着く。往復しても十日。トラブルが起きても遅くなるにしても、連絡も無いのはおかしい。
ということで、セアラが荒れている。
「私も王都に行くわ! アルトはあんなに嫌がっていたんだもの、王都に着いて連絡が出来るようになったら毎日のように手紙を送って来るはずよ! 一通も来ないなんておかしいわ」
……アルトへの信頼の方向が大分おかしい。
だが、確かにセアラ大好きのアルトがこんな長期間離れていて、手紙を一通もよこさないのは異常だ。
「セアラ様、落ち着いて下さい。アルト様に続き貴女も居なくなってしまうと、領民の不安を煽ります。」
「でも…! 一ヶ月も帰って来ていないのよ。何かあったに違いないわ……」
「はい。ですから、私が王都に行きましょう。この領を離れても大丈夫な者で、道中盗賊や獣に襲われても、返り討ちに出来るくらいの実力と実戦経験をもつ者は私くらいしかおりませんから」
このように言うと、自慢のように聞こえるが、私は過小評価も過大評価もしていない。
それをセアラも分かっていて、なんとか納得してくれた。
「……分かったわ。ルーク、あなたに命じます。アルトと無事に帰って来なさい」
「御意」
……この時の私は知らなかった。この時に王都に行くという選択をしたことをずっと後悔し続けることになるとは。
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