第2話 前世の記憶②

 目が覚めると、知らない部屋だった。

 しばらく部屋を観察していると、あの綺麗な人が現れた。


「起きたの? お腹が空いているでしょう。少し待っていて」


 そう言うと、侍女が現れ、ご飯を持ってきてくれて、私にくれた。


∗∗∗∗∗


「わたしはセアラよ。あなたは?」

「私はルーク」

「あら? 男性のような名前ね」

「男だよ。よく勘違いされるけどね」


 そう、私は男なのだ。容姿は自分でも何も知らずにいたら女だと思える程で、むしろ男と言っても信じてくれないが。

 「私」という一人称も相まって、こちらから何も言わないと名前が男っぽい女だと思われる。

 まあ、私自身女だと思われようがどうでもいいので、いつもはわざわざ訂正はしていないが。

 セアラも別段気にしていないようだった。


 セアラは屋敷を案内しながら色々なことを教えてくれた。

 セアラは貴族、それも公爵家に生まれた魔力持ちなこと。貴族だと社交デビューをした子供を簡単に捨てることは外聞が悪かったため、未開の森が領土のほぼ全ての魔力持ちの伯爵に嫁がされたこと。そして、ここはその領主館であること。

 無理矢理嫁がされたのなら夫婦仲は悪いのかと思いきや、お互いに好き同士らしい。


 そして、この領にはほとんど人が居らず、常に人手不足だということ。

 今すぐ回答は求めないが、私にここで働くことを考えておいて欲しいことも。


「……さっき食事を持ってきてくれた侍女の人は?」

「ああ、エイダはね、実家からついて来てくれた唯一の私の侍女なの。実はエイダも魔力持ちだけど、隠していたのですって」


 私がこれから使う寝室から始まって、セアラや旦那様の寝室、厨房、井戸、風呂など、屋敷の案内が始まった。そして、最後に旦那様の執務室に向かった。

 執務室では旦那様がいて、仕事をなさっていた。

 黒い髪に青い瞳をしている、セアラとは違った種類の美しさを持つ青年だった。

 旦那様はアルト・コーフェンタルという名前らしい。

 早速、私のこれからをどうするかを聞かれた。


「俺はこれから、この土地を開発し、魔力持ちのための領地を作っていきたいと考えている。もし、君さえ良ければここで俺に仕えて欲しい」

「アルト、もう少し考える時間を……」


 セアラは旦那様を諌めていたが、答えは前々から決めていた。


「私もここで働くことに異論はありません。しかし、仕えるのなら──セアラ様。貴女に仕えたい」


 あの時──セアラに会った時──、初めて人をちゃんと見た。

初めて綺麗だと思った。

初めてその視界に映して欲しいと願った。


 元来の性格か、昔から何も感じず、また何事にも執着しなかった私が、ここまで他人に心を動かされたのは、初めてだった。

 両親に嫌われようが、無視されようが、捨てられた時さえも、たいして何も思いはしなかったのに。


「そうか。セアラが良いのなら問題はない。……仕事内容は変わらないからな」

「……本当にこんなにすぐ決めちゃって良いの?」

「はい。考える時間は少なくとも、きちんと考えた上での結論ですので」

「ルークが良いのなら認めましょう。これからよろしくね、ルーク」


 交渉をしなければと覚悟をしていたが、あっさりと許可がおりた。

 それから、私は執事兼旦那様の秘書としてこの夫婦を支えることになった。


──・──・──・──

注意:ルーク(前世)は男ですが、鏡花(今世)は女です。

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