声劇台本『困った同居人』男性0人、女性2人

深上鴻一:DISCORD文芸部

『困った同居人』

男性0人

女性2人


サツキ……OL。知的な感じ。


澄子……幽霊。ほんわかした感じ。


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サツキ「ただいまー」


澄子「お帰りなさーい」


サツキ「あー疲れた疲れた。もう、毎日残業で嫌になっちゃう」


澄子「お疲れ様です。ビール冷えてますよ。それとも、先にお風呂にしますか?」


サツキ「うーん、まずはビールにするかなあ」


澄子「簡単なものですけど、おつまみもありますよ。オクラとお豆腐を、小さく切って混ぜ混ぜしてみました。ヘルシーで美味しいと思うのですが」


サツキ「わあ、それは素敵だなあ。じゃあ、まずはビールっと。(ビールを飲む音)ごくっ。ごくっ。ごくっ。ぷはあ!」


澄子「サツキさんって、本当に美味しそうにビールを飲みますよね。うらやましいなあ。あたし、ビール飲めませんから」


サツキ「って言うか、澄子さん、物も食べられないよね」


澄子「そうですねえ。我々は、香りを楽しむだけです。それが食事代わりなんですよ」


サツキ「あ、あのさあ……澄子さん」


澄子「あら。急にあらたまって何でしょう?」


サツキ「そろそろ、成仏してみない?」


澄子「え」


サツキ「って言うか、おかしいよ! こんな幽霊との共同生活は! お願いだから、そろそろ出て行ってえ!」


澄子「そう言われましてもお。先に住んでたのは、あたしの方なんですし」


サツキ「ええ? 出て行くのは、あたしの方だって言うの?」


澄子「そ、そんなことは言ってませんよお。でも、あたしがいて便利でしょう? こうしてご飯も作りますし、お洗濯もしますし、お掃除もしますし、朝だって低血圧なサツキさんを必ず起こしているじゃないですか」


サツキ「だから、必ず起こしてくれるのは嬉しいけど! 部屋中がピシピシ鳴ってるのは怖いのよう。怖くてベッドから飛び起きてるだけなのよう」


澄子「あの音は、専門的にはラップ音って言うんですよ?」


サツキ「そんなことはいいから! お願い、出てってよお。こんなことじゃ、彼氏も家に呼べないのよお」


澄子「わあ! 彼氏さんができたのですか。あたしにも紹介してくださいね」


サツキ「紹介しません。そんなことしたら、一発でフラれます。って言うか、霊感がある人以外には見えないんでしょ?」


澄子「夜中に鏡をのぞけば、普通の人でも背後に見えることがあるのです」


サツキ「怖いよ!」


澄子「じゃ、じゃあ、あたしは姿を消してますから。それなら2人で、思う存分ラブラブできますよね?」


サツキ「幽霊がいるとわかってるのに、そんなことできるわけないでしょう。あーん。もう嫌だあ。どうやったら成仏してくれるのよう」


澄子「さあ、わかりません。自分でも、なぜ成仏できないのかわからないのです」


サツキ「やっぱり、きちんとお祓いしてあげようか?」


澄子「あれは苦しいからいやなんです。許してください」


サツキ「でも天国に行けるのよ? 天国って、いいところだと思うなあ。ちょっと苦しくても、我慢すればいいんじゃないかなあ」


澄子「ひどいです、サツキさん! そんな人だとは思いませんでしたっ」


サツキ「あたしの生活をめちゃくちゃにしてる、澄子さんも十分にひどいのよ?」


澄子「あ! そう思っていたのですか。いいですよお。……祟りますから」


サツキ「あーん! それだけは言っちゃだめえ! あたしはね、念願のひとり暮らしなの。友達を呼んでたこやきパーティしたり、彼氏を呼んでラブラブしたりしたいの」


澄子「あたしだって、友達を呼ぶのを我慢してるんですよ? じゃあ呼んじゃいますからね?」


サツキ「絶対にだめえ! もうわかりました。あたしが一生懸命に手を合わせますから、それで成仏してください。お願いします」


澄子「だからあたしも、それで成仏できるのかわからないのです」


サツキ「とりあえず、やってみよう? ね? 澄子さんに向かって手を合わせればいいのかな?」


澄子「うーん。何だかそれは、あたしが偉くなったみたいで恥ずかしいです。もっと別なところに手を合わせてください」


サツキ「じゃあ、どこに向かって?」


澄子「そうですねえ。あたしが、ぶら下がっていたのは確か……」


サツキ「あーん! やっぱり自殺だったんだあ。今まで怖くて聞けなかったけど、そういう死に方だったんだあ。だから幽霊になっちゃったのねっ?」


澄子「あ、幽霊差別。殺されちゃった人だって、幽霊にはなりますよ?」


サツキ「そうかも知れないけど。ねえ、どうして自殺しちゃったの? その理由を解消してあげたら、きっと成仏できるんじゃないかしら」


澄子「なんだったかなあ。もう忘れちゃいましたねえ」


サツキ「忘れちゃうものなの!?」


澄子「きっと、たいした理由じゃなかったんですよ」


サツキ「たいした理由もなく自殺しちゃだめーっ!」


澄子「あ」


サツキ「思い出した!?」


澄子「ゴキブリがいます」


サツキ「ああ! いや! いや! あたしゴキブリはだめえ! お願い、澄子さん、退治してえ!」


澄子「あたしと同居してくれます?」


サツキ「するする! いつまでも、好きなだけいていいからあ! あーん、はやくう!」


澄子「じゃあ。えい! はい、退治しましたよ」


サツキ「うう。情けない。幽霊よりも、たかが虫の方が怖いなんてえ。あれ?」


澄子「いつまでも……好きなだけ……いてもいい……」


サツキ「澄子さん? 光ってる! 身体が光ってるよっ」


澄子「あは。何だか嬉しくなったら、成仏できる気がしてきました」


サツキ「え? そうなの?」


澄子「ビン缶ペットボトルは水曜日、燃えないゴミは金曜日。忘れないでくださいね?」


サツキ「す、澄子さん……」


澄子「では、これにて。長い間、お邪魔しました」


  ちょっと間。


サツキ「ばか。いきなり成仏しなくたっていいじゃない」


  ちょっと間。


サツキ「あ。オクラとお豆腐、美味しいな……」


澄子「混ぜすぎないのがポイントです!」


サツキ「って成仏してないのかよ!」


  おわり

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