ここはゲームのような世界だと分かっている。分かってはいるんだが、僕はキミを乗っ取りたくない

のぶのぶ

世界は遊戯を終わらせる

 俺がお前に出会った、いや、気付いたのは、8歳の夏、そう、とても暑い夏の日だったな



 後から聞いた話だが、その年は、夏が特に長く、雨が降らないせいか世界中で干ばつの危機に陥った年だったそうだ


 当たり前だが、人は食べられなければ生きられない

 だからその日は、使用人はもちろん、領主だった両親すらも食糧、水の確保に奔走していたそうだ



 そんな中、俺は倒れた


 誰もいない部屋で、父親から与えられた歴史の本を読んでいる時、ふと、誰かの声が聞こえた


 と思った瞬間、目の前に机 が迫ってきた



 頭をぶつけた、と思う間もなく、身体、というよりも、頭に何かが無理やりねじりこまれるかのような痛みが始まった


 それはとても耐えられるような痛みではなく、意識を飛ばしそうになるも、その痛みで覚醒するような有り様だった。しかも、動こうにも身体に力が入らなく、さらには声も出せない

 段々呼吸すらツラくなり視界が狭くなって、あぁ、ボクは死んじゃうんだなって思ったその時・・



 そう、確か、その時、お前の声が聞こえたんだったな



( __ろっ__ 僕___込__ら___子の_神____る )





( _____そぉ___ 入_なきゃ_んねぇ_か!! こんな___子の__を殺_てまで )


( は? な、なん_って? )


(そんな事しねぇよ!! くそがーーーーっ!!!! )






 後でお前に会話の内容を聞いてびっくりしたもんだが、まさか、あやつらとやり取りしていたとはなぁ


 ・・今この時も思うが、お前は神様という上位存在に対する敬意が少しばかり足りんぞ?



 まぁ、その発言のお陰で、俺の意識はお前と混じることなく、こうしてこの場に立っていられるんだけどな




 こうして振り返ると、お前との付き合いも案外短く感じるから不思議なものだ。これが、歳を取るということか・・なんてな



 おい、ここ笑うところだぞ?





 ・・さて、そろそろ皆の者も補給が終わりそうだ



 あの時のお前は、全てに一生懸命で、誰もが周りに目を向ける事すら出来ないあの状況の中で、俺を、全てを救おうと必死だったとは思う


 実際に、助かった人も多かったし、お前のお陰で俺の道が拓けた部分もある。それは認める




 だがなぁ・・


 今だから言うが、この木、お気に入りだったんだぞ?

 お前と会ってからは、ほとんど来ていなかったが・・幼き頃は良く父親に連れられて来たもんだ


 今は見る影もないが、あそこらの太い枝に座ってな、父親に帰ると言われるまで、ずっと飽きもせず遠くの景色を見続けていたんだ


 今はもう無いが、晴れた日には遥か彼方にあった王城が見えてなぁ。その右手に見える山には飛竜なんかも飛んでいたりしたんだぞ



 お前とは、いつかここで、俺が一番好きだったあの景色を見ながら、頭の中ではなく、面と向かって話せる日が来る、と俺は信じていた


 ま、王城は消え去って、山すらも半分以上えぐれているこの景色を背に、お前と語り合うのもまた一興、なんて今でも思っていたりもするんだが


 ・・お前はどうだったんだろうな







 俺は、またお前に会いたいよ







 ・・よし。次来る時は、凱旋報告だぞ。では、またな









 男は、既に命を感じない大樹に背を向けて歩き出す



「閣下、全て整いました」


「あぁ、待たせたな」



 眼下には、総勢一万の精鋭




「諸君。我々の世界を取り戻す戦いだ」



 それは、各国から厳選された勇士達


 違う鎧を纏う者も、肌の色が異なる者も、種族すら異なる者もいた



「今日この日まで我々が感じてきた、苦しみ、悲しみ、痛み。これらは、全てが全てあやつらのせいではない」



 各国が防衛を考えず、全てを託した精鋭が、ここにいる



「だが、あやつらが撒き散らす絶望を、繰り返させてはならない! 」



 精鋭の中には、既に滅んだ国の者もいた



「この絶望を! 延々と続く、この絶望を! これ以上、続けさせるわけにはいかないっ!! 」



 精鋭の中には、親を、子どもを、兄弟を、姉妹を、または、その全てを奪われた者もいた



「・・我は今でも思う。あやつらの好きようにさせておっても、抗ったとしても、結局世界は変わらんのではないか、と」



 死にたくない、死にたくない、と泣きながら死んでいった友を想う


 どうしようもないの、と笑いながら、それでも殺さなければならなかった妻を想う


 苦しい、お父さん助けて、・・もう終わらせて、と目を閉じた、助けられなかった子どもを想う


 今まで ありがとう、と書き残し、居なくなった父親を想う



 それぞれが、それぞれの過去を想う



「しかしっ! この時代を生きる者として! 精一杯足掻いて、足掻いて、足掻き続けるのが我である!! 」



 誰も彼も、足掻けなければ生きられない、そんな時代であった



「なにしろ、あやつらとの戦いの切っ掛けは、可愛い我の、子どもらしい我が儘であったからな。足掻き続けなければ示しが付かん」



 クスクス

 フフッ

 彼の当時を知る者、また、それを口伝にて知っている者、正しくそれは全員であったが、それぞれの小さな笑い声がこの場に広がった


 どのような戦いであっても、切っ掛けは些細なものである



「コホン。この戦いで、命を落とす者もいるだろう・・しかし、それは我とて同じだ」



 全員の顔が引き締まる



「最期に問おう。心残りのある者はいないかっ! 」







 ・・皆の者、すまない




「諸君らの意思は、この世界が記憶するであろう。我々の世界が、我々の世界である限り! 」


 ガッ!

 全員が武器を鳴らす



「さぁ、我々で、我々の手で、全てを終わらせるぞ!!!! 集団転移陣起動用意! 転移後、第一軍は我と共に目標正面に即時 展開し初撃に備えよ!! 各軍隊長、もしもの時は任せるぞ! 」









 後世にて、「神の遊戯」とされた時代を終わらせた「神堕とし」と書される戦いが、今、始まる。

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ここはゲームのような世界だと分かっている。分かってはいるんだが、僕はキミを乗っ取りたくない のぶのぶ @nobsato

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