VTuber凍結まつりの謝罪会見

めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定

第1話

 雪のような純白の髪のポニーテールに緋色の瞳。

 首に黒と紅のチョーカーリボンを巻いた着物姿の雪女をベースとしたアバターが席に着いた。真っ白に染まる画面。彼女を囲む報道陣が焚いたカメラのマズルフラッシュだ。

 目を細めて怯える表情を浮かべる。

 それもそのはずだ。机の上に謝罪会見の文字。自らの罪と向き合う場所に恐怖を覚えないわけがない。

 彼女の名前は凍結まつり。

 全SNSの非公式謝罪VTuberとして今日デビューした新人だ。


「この度は誠に申し訳ありませんでした。私は全SNS非公式VTuber凍結まつりです」

「自分がなにやったかわかっているの!」

「どう責任を取るおつもりですか!」

「多くの人に迷惑をかけたんだぞ!」

「静粛に! 静粛に! 記者の皆さん順番を守ってください!」


 騒然となる会場。

 司会が押し留める声も空しく響き、怒号は止まらず凍結まつりを糾弾する。

 凍結まつりは真っ向から受け止めているが、緋色の瞳は潤んで見えた。


「なにか言ったらどうなんだ!」

「そうだそうだ!」

「静粛にお願いします! 会場が静かになりましたら凍結まつりから説明がございますので」


 このままでは埒が明かないと気づいたのか会場はようやく静寂を取り戻した。

 もしも凍結まつりが涙を流し始めたら、再びマズルフラッシュが焚かれて「泣いて済むと思うな」などの罵詈雑言が飛び交っただろう。

 望む絵を撮るためならば手段を選ばないのが記者という生き物だ。

 この会場にまともな人はいない。

 司会から目で合図を受けた凍結まつりは口を開いた。


「今回発生してしまった不適切な祭について説明させていただきます。アカウントの凍結。あってはならないことだとわかっていました。ハッシュタグの付け過ぎによるスパム判定。赤字の弊社に一円の寄与もないサードパーティアプリの利用はマジでやめてほしい。本音をぶっちゃけると有料会員になってほしいという誘導だと思われます」

「そんなものが理由になるか!」

「本物のスパムメールのアカウントが凍ってないぞ!」

「お前らのサービスが悪いからサードパーティを使っていたんだろ」

「結局金か!」


「はい。お金です」

「ぶっちゃけすぎだろ!」

「喧嘩売っているのか!」

「謝罪する気はあるのか!」

「お金払って買ってくれるなら喧嘩も売りますし、謝罪もするんです!」

「開き直るな!」


 再び飛び交う怒号。

 さすがにぶっちゃけすぎたと反省したのか、凍結まつりは黙り込んだ。そしてマスクを着用する。マスクには『異論があるならばどうぞ』と書かれている。

 記者たちもようやく気付いた。完全に煽っている。炎上狙いだ。雪女なのに火属性だった。さすがにそのマスクはないだろうと。

 ここで写真を撮り、記事にしてしまえば自分たちの媒体も延焼しかねない。

 記者たちの勢いが削がれたのを見計らい凍結まつりは第二の小道具を取り出した。

 お皿に置かれた白い冷気が漏れる真っ白な球体。

 遠目からではなにかわからない。凍結まつりはマスクを外して、つまんだ白い球体をパクリと口に入れた。

 もぐもぐと咀嚼する。少し浮かんだ笑み。美味しそうだ。


「知っていますか? マシュマロって凍らせても美味しいんです。求肥とグミの間みたいで。このままでは甘みが足りないのが欠点ですけど」

「本当に謝罪する気があるのか!」

「すみません。実は日本語わからないんです!」


 意思の疎通すら困難だった。

 記者たちも天を仰いで途方に暮れる。

 果たしてこの問題は収束するのか。それともコールドケース(未解決事件)になってしまうのか。

 未来はマスクされてしまって誰にもわからない。

 

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