第13話 おじさん整備士、あることに気づく
「やった! 齋宮見た? またゴブリンを倒したわよ!」
「その成長速度は凄いぞ。おめでとう」
「やっぱり私は天才なのかもしれないわね」
ゆあはドヤ顔をする。
……まぁでも、彼女が天才だというのは大方当たっているだろう。
今朝から倒したゴブリンの数は全部で17匹。新人でこれくらい倒せれば大したものだ。
「そうだな」
「絶対思ってないでしょー」
むぅ、と頬を膨らませるゆあ。美少女なこともあって大変可愛らしい。
「思ってる思ってる。じゃあたくさん倒せたことだし、今日はもう終わろうか」
「えぇーっ、もう? 早くない?」
「初の第2層で疲労も溜まってるはずだから。今日中にしっかり休んで、次回までに疲れを取ろう。探索者は体調第一」
「……分かった」
もっと討伐したかったのにとでも言いたげだ。気持ちは分かるけど、彼女にダンジョンを教える身としては賛成できない。
それ以上に……
俺は岩陰を覗いた。
ゴブリンがこちらを睨んでいる。いつもの事というか、当たり前の光景だ。
だけど、イレギュラーがひとつある。
(どうしてナイフを持ってるんだ……)
ゴブリンの武器は通常、無しか棍棒、石など殺傷力のそれほど高くないものだ。だからこそ第2層にいるとも言える。
なのにあのゴブリンはナイフを持っている。しかもかなり鋭いナイフだ。さっきからそういう個体をいくつか見た。
一言で言うと、気味が悪すぎる。
早くここから出たい。
「では、ここで終わろうと思います。ありがとうございました」
気がついたらゆあが挨拶をしていた。俺も同じように挨拶をする。
"おつ"
"お疲れ様〜"
"ゆっくり休んでね"
"今日も楽しかった! ありがと!"
"ゆあちゃん可愛かった"
"次もまた来るわ"
"今日も尊かった"
終わりのあいさつが次々と流れていった。どうやら大きな失敗とかはなかったようだ。
人が増えてきたんだ。配信者としても、もっと気を引き締めないと。
家に帰ってからご飯を食べて身支度をし、俺はある人物の家に向かっていた。いや、ある人物とかいうよりただの悪友なんだけど。
彼は姫野グループのダンジョン研究員で、第一線で活躍している。俺の情報も、こいつから聞き出すことが多い。
そして今回訪ねた目的はただ話したいとかいうより、仕事仲間としての相談で……
突然の訪問にも彼は嫌な顔はせず、部屋に招き入れる。大きいマンションの一室。
そこで俺と悪友――
「秀、ゴブリンって、武器を持つことはあると思うか?」
「なに急に? そりゃ持つだろ。棍棒とか」
「あぁごめん。聞き方が悪かった。いや、今日の整備でちょっと気になることがあって……」
ダンジョンに、ナイフを持ったゴブリンがいたことを説明する。
予想通り、糸瀬は怪訝そうな顔をした。
「ありえなくない? 落ちてる武器は見つけたらすぐに拾うように言われてるじゃん。それにゴブリンが落ちてる武器を自主的に拾うとも思えないし。武器にしようとするとも思えない。そこまで賢くないから」
「だけど実際にいたんだ。それに、腕が落ちてた」
切り出すと、糸瀬はさらに眉を上げた。
「腕?」
「誰か人間の腕だ。しかもその傷口はナイフで切ったような感じだった」
「なるほどね。それで誠は何が言いたいわけ?」
「何かダンジョンでエラーが起きてるんじゃないかと思って」
「まぁ、そうかもしれないけど……その話が本当だと仮定するなら、かなり怖いことになる」
秀が目を細めて言う。
その緊張した雰囲気に、自然と体が強ばった。
「怖いこと……」
「そう。エラーが起きたわけじゃない。誰かが、ゴブリンに教え込んだんだ。ナイフを持たせて、それで人を襲うようにって」
「そんなことが……!?」
想像以上に恐ろしい糸瀬の考えに思わず変な声が出る。
だってゴブリンにナイフを持たせて探索者を襲わせるなんて、無差別殺人と何も変わりがない。自分で手を下していない分残酷だ。
「まぁ仮定にはすぎないけど、嫌な話だよね。もしかしてら他の階層でも同じようなことをしているかもしれない。そしたら、今後探索者の致死率は圧倒的に増加する」
「マ、ジか……」
糸瀬は冷静だ。賢いから頭の中で理論が固まっているんだろうけど、こっちとしてはその突拍子もない考えをすぐ理解できない。
「もっと気をつけて。ダンジョン探索がもっと危険になるかもしれない。今のところ、第1層に異常はないんだよね?」
「なかったな。多分あそこのモンスターには、ゴブリンと違って知恵がないから」
「だろうな。お前確か今、女子高生とペア組んでるんだっけ?」
糸瀬にはゆあのことをちゃんと話していた。賢い友人のアドバイスは貰っておくにかぎる。
「あぁ、そうだ」
「分かってるとは思うけど、その女子高生に無理だけはさせちゃダメだ。探索はもっと慎重にならないと。第2層に行くのにレベル4はあってもいいかもしれない」
「そうだな。気をつけるよ」
第1層だけでレベル4まで上げるのか……かなり日数もかかるししんどそうだけど、命には変えられない。
「あとその大量殺戮者には目を付けられるなよ。配信者でただでさえ目立ちやすいんだから」
背中を冷や汗が伝う。
そうか……しかも同接はかなりの数を記録していたらしい。
もし目をつけられたら……
「あぁ」
「まだ言うことがあるなら……お前ももっと……ステータスだけは上げておくべきかもな」
「ダンジョンにもう一度潜ってみるよ」
「その方がいい……まぁ、お前なら大丈夫だと思うけどね。ステータスだけ見れば、超高ランク冒険者と変わりないんだから」
糸瀬はこちらを見て、ニヤリと笑った。
そう。俺はステータスだけ見ればレベル100相当の超高ランク冒険者と変わらないーー
リストラされたベテランダンジョン整備士、美少女駆け出し配信者のディレクターになる。知識チートで支えていたら、バズってしまった件 時雨 @kunishigure
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