第4話 明朝耽れば、なんと不気味なことよ

 とびらひらいたそのさき空間くうかんは、一面いちめん銀世界ぎんせかいだった。

「これはこれは、また奇妙きみょう光景こうけいだね。これは、まるで狂気山脈きょうきさんみゃく彷彿ほうふつとさせる…。」そこからさらに、言葉ことばつむごうとするがくちびるがうまくうごかせない。からだ外郭がいかくからやされむしばまれていくような感覚かんかく。このままでは体組織たいそしき徐々じょじょ壊死えししてしまうだろう。そうおもわせる驚異的きょういてき猛吹雪もうふぶきは、これが非現実的ひげんじつてきなものではなく現実げんじつきている事象じしょうであるということをありありとつたえてくれている。

 その状況じょうきょう往生おうじょうしてしまいそうになっていると、とびらのハンドルをにぎっていた悠生ゆうせいくんとびらじてくれた。

「…った、たすかったぁ…。本当ほんとうぬかとおもったぁ。」そう言葉ことばこぼして、ゆかにへたりんだ。

「これは、いま服装ふくそうなかすすむのは自殺行為じさつこういですね。スタッフルームになに使つかえるものがないかあさりにくことがさげでしょうかね。」とまぶたじて、にやけつらかべている悠生ゆうせいくんたいつめたい視線しせんけておく。そういえば、此奴こやつ他人ひといえくと物色ぶっしょくするタイプだったな。しかし、いまはそれがただしいか。

「そうですね、使つかえるものがないかさがしてみましょうか。」

「おっ、めずらしい。いつもだったら、『は?なにってるんだ。馬鹿ばかじゃないのか。』ってうくせに。」そうケタケタとわらうのもまた腹立はらだたしくかんじてしまうのは精神的せいしんてきにも多少たしょう摩耗まもうはじまっているからだろうか。

「いつもそんなに非情ひじょうではありませんので。それに、ぜんいそげです。会話かいわをしているよりも、行動こうどううつほう何倍なんばいよいいとおもいますが、かないのですか?」

 小生しょうせいのその言葉ことばいた悠生ゆうせいくんは「フッ」とはなわらい、「そうだね。」とげてホールのほうへとあるいていく。小生しょうせいもそのあといていくことにした。

 スタッフルームのちかくまであるいてくると、ちょうど階段かいだんりてきた海斗かいとくん合流ごうりゅうした。

「どうした、二人ふたりとも。なにかにづまったのか?」とわれたため、二人ふたり吹雪ふぶきいている部屋へやがあって防寒対策ぼうかんたいさくでもしないとはいれないということをつたえると、「またそれは奇怪きっかいな。になるからってみる。すぐにおまえらのところにもどるから、映写室えいしゃしつかぎつけたらおしえてほしい。」とわれる。

 小生しょうせい二人ふたりかお見合みあわせて、たがいに困惑こんわくなやみの感情かんじょう共有きょうゆうする。そして悠生ゆうせいくんは、「とりあえず、とびらたてにするとい。じかにあの寒波かんぱけたら、いくらきみでも凍傷とうしょうからのお陀仏だぶつだろうね。一応いちおうだが忠告ちゅうこくはしておいたからね。けてくれよ。」と海斗かいとくんつたえる。それにおうじるように海斗かいとくんも「もちろん、ここではさらさらないからね。」とかえしたのを悠生ゆうせいくん満足まんぞくそうにいていた。

 そして、小生しょうせいらと海斗かいとくん一旦いったんわかれて行動こうどうすることとした。

 ほどなくして、ホールに横付よこづけされているスタッフルームにたどりいた。

「とりあえずは防寒着的ぼうかんぎてきなにかと、映写室えいしゃしつかぎさがそうか。ほかにも、使つかえそうな物品ぶっぴんがあれば拝借はいしゃくさせていただくのもやぶさかではないね。」と、またわるだくみをするような笑顔えがお悠生ゆうせいくんかべる。そして小生しょうせいはその言葉ことばみぎからひだりへとながして、スタッフルームの内部ないぶ侵入しんにゅうする。

 どうやら、この部屋へや物置ものおきのように使つかわれているらしく、梯子はしごやパネルの残骸ざんがいかさなっていた。

「これはこれは、豊作ほうさく予感よかん…。」

悠生ゆうせいくん笑顔えがお口角こうかくがどんどんとがっていくのを横目よこめおくほうあさっていると、多分たぶんだがむかし映画えいが物品グッズられたのだろう厚手あつで上着ジャケット何着なんちゃくつけた。

「これなら使つかえるとおもうが、そっちはどう…だ。」悠生ゆうせいくんほうると、ぐるみのようなものをつけたらしく、そのかぶものかぶっていた。

たしかに、防寒ぼうかんというめんでは十二分じゅうりぶんだろうね...。」と苦笑にがわらいでその空気くうきながす。

「これなんだが、案外あんがい着用ちゃくようしていると結構けっこうあつい。まあ、目的もくてきとしては間違まちがってはいないか。」と、すこ残念ざんねんがった声色こわいろ悠生ゆうせいくんう。なぜかはかずともわかるが。

 そんなこんなで時間じかんったのだろう、海斗かいとくんがやってきた。そして、一言目ひとことめに、

「ざむかっ、ってなにそれぇ…。」とあまり状況じょうきょうめていないような言葉ことばされていた。

「どうでした、あそこは。」と、そんな状態じょうたい海斗かいとくんくと、

「ヤバすぎだろ。なんかスクリーンのおくほうなにかあるっぽいし。あんなところ、生身なまみ突入とつにゅうするほうがアホだろ。」と、言葉ことば羅列られつしてきた。どうやら、あのおくなにかあったらしいので、梯子はしごってってみるのもいいかもしれないな。

「…悠生ゆうせいくん、そのぐるみってまだありますか?」とくと、悠生ゆうせいくんたてくびっておくから二着にちゃくぐるみ衣装いしょうしてきた。

はあまりりませんが、はらをくくりましょう。梯子はしごって第二だいにシアターに突入とつにゅうしましょうか。」その言葉ことばいた二人ふたり渋々しぶしぶくびたてり、小生しょうせい海斗かいとくんわたされたぐるみを着用ちゃくようし、悠生ゆうせいくんさき梯子はしごって第二だいにシアターのほうあるいてった。


準備完了じゅんびかんりょうってかんじだな。」

 小生しょうせい三人さんにんはそれぞれぐるみを着用ちゃくようし、悠生ゆうせいくんには梯子はしごってもらっている。

「では、事前じぜん手筈てはずどおりに、一番いちばん体力たいりょくのある海斗かいとくん梯子はしごのぼってもらって、小生しょうせい悠生ゆうせいくんはそれをささえる。再確認さいかくにんはこれ以上いじょうらないですね。きましょうか。」そうって、小生しょうせい第二だいにシアターのとびらはなつ。

 先陣せんじんるのは梯子はしごっている悠生ゆうせいくん。そして、並走へいそうするように海斗かいとくん梯子はしごをかけるべき場所ばしょしめす。それは、スクリーンのおくだった。いや、ただしくうにはその言葉ことばではりない。それは、スクリーンに投影とうえいされている映像えいぞうなかだった。

 どういう技術ぎじゅつでそれを可能かのうにしているか理解りかいしがたいが、スクリーンのおくにも空間くうかんがあり、映像えいぞうおな空間くうかんつづいていた。

 そして、小生しょうせいはそのことにおどろいたこともあり二人ふたりうように最後尾さいこうびはしることとなった。元々もともと体力的たいりょくてきにもいまなかている衣服的いふくてきにもはしるるのにはどうかんがえてもあっているとはえないのもあり、また二人ふたりとの距離きょりいてしまった。しかし、このぐるみのおかげだろうか、そこまでさむさをかんじない。多少たしょう時間じかんをかけても大丈夫だいじょうぶだろう。

 さきはしっていた二人ふたりはどうやら目的もくてき地点ちてんにたどりいたようで、梯子はしごがけにかけて小生しょうせいくのをってくれていた。すぐに小生しょうせいけつけて梯子はしごささえにはいる。

 小生しょうせい二人ふたり固定こてい完了かんりょうするやいなや、海斗かいとくんいきおいよく梯子はしごがる。そして、なにかをつかんだようで吹雪ふぶきいきおいいにまかせて一気いっきった。それを確認かくにんした小生しょうせい二人ふたりは、梯子はしごよこたおしてとも出入口でいりぐちかってはしす。

 そして、うつされているスクリーンからからだし、もうすこしで出口でぐちにたどりくというところできゅう猛吹雪もうふぶきき、足元あしもとにあったゆきすべけたかのようにってしまった。それにおどろいた小生しょうせいいきがってるのもあり内部ないぶあつくなってしまったため、ぐるみの頭部とうぶはずす。

「はぁ…、はぁ…。なんなんですか、まったく。」と、こえ無意識むいしきのうちにる。

「本当にそうです。そういえば、なにれたんだ?」と、悠生ゆうせいくん同調どうちょうしながらも海斗かいとくん質問しつもんげかける。すると、ぐるみをすでっていた海斗かいとくんなかにあったものせてくれる。どうやらかぎのようでタグもついていた。さらに、そのタグには、スタッフよう休憩室きゅうけいしつかれていた。

「スタッフよう休憩室きょうけいしつですか。小島こじまくんなにかピンとくるものありますか?」とまた悠生ゆうせいくんくと、海斗かいとくんあたまをひねってかんがえるそぶりをせる。

 そのまま数分すうふんってしまうだろうかというところでひとつのこたえにたどりいた。そして、それを二人ふたりにもつたえる。

「あ、レジのおくですよ。あそこじゃないですかね。」

 それをいた二人ふたりは、「あー!」と、同調どうちょう意思いししめす。

「とりあえず、このぐるみをいだらきましょうか。」そういながら、まだすべてをいでいなかった小生しょうせい悠生ゆうせいくんぐるみをぎ、ホールのほうへとあるいていく。

 そこまで時間じかんもかからずにホールまでたどりく。そのまま小生しょうせい三人さんにんはレジへとはいり、おくとびらかぎ使つかってみると、ただしかったようでかるしただけではいることができた。

 内部ないぶ文字もじどお休憩室きゅうけいしつとして使つかわれているらしく、ロッカーや椅子いすつくえなどありきたりな家具かぐ配置はいちされていた。そして、壁際かべぎわにはかぎをかけるところがあり、第三だいさん映写室えいしゃしつかぎのみがかけられていた。

「これこれ、さがしていたのはこれだよ。これであの部屋へやけられる。」と、安堵あんどのような意味いみじった言葉ことば海斗かいとくんう。

「これで一階いちかい大部分だいぶぶんわったでしょうし、あかりさんとも合流ごうりゅうしましょうか。」

 そう小生しょうせいうと、二人ふたりおなかんがえのようだったので映写室えいしゃしつのある二階にかい三人さんにんがってった。

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終わりなき理想郷 雀黒弾馬 @Daysyuksay

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